第107話 夕日出さんとのディナー③
「お前なあ、恥かかす前に名乗れよな!」
ディナーのテーブルにつくなり夕日出さんは真っ赤な顔のまま文句を言った。
「勝手に夕日出さんが恥かくようなこと言い出したんじゃないですか。だいたい知人と待ち合わせて、わざわざ名乗る人なんていないですよ」
「ああ……ったく、お前ごときにときめいた自分が恥ずかしい」
「青目のゴスロリにときめく方がどうかしてますよ」
「ふん。まさかそんな恰好で現れるとは思わなかった。それがモデルの衣装なのか? 亜美はもっと普通の恰好だったぞ?」
そういえば夕日出さんは以前、亜美ちゃんと付き合ってたんだ。
すでに別れたとは噂で聞いたが……。
「新しく参入するブランドみたいです。これでも一番地味なのにしてもらったんですよ。危うく子ネズミ帽子までかぶらされるところだったんですから」
「子ネズミ帽子? なんだそれ?」
夕日出さんはようやく機嫌を直してきたらしく、くくっと笑った。
「しっかし……ふーん、やっぱモデルを名乗るだけはあるんだな。いや、悪くないぞ。うん。今度から俺と会う時はその恰好にしろよ」
「まさかそんな風に言われるとは思いませんでした。夕日出さんの
「あのな、誰でもいいみたいに言うのやめてくれるか? これでも超面食いだ。美人しか愛せない。いや、お前だけは例外と思ってたが、やっぱりアンテナは狂ってなかったみたいだ」
「最低ですね。夕日出さんのアンテナがどうであろうと、もうこの恰好で出歩くことはありませんから」
「なんでだよ。綺麗な人形連れ歩いてるみたいでちょっと気分いいんだけど。今度その恰好で遊園地デートしようぜ」
「お断りします」
ちぇっとふて腐れる夕日出さんの前には、数種類の前菜がのった皿が置かれた。
色鮮やかで手の込んだ、ワンプレートだけで数千円しそうな料理だ。
夕日出さんはカジュアルさを残すジャケットを着て、
「おい、デザートスプーンで全部食べようとするな!」
私が一番馴染み深い小さいスプーンを持つと、すぐにダメ出しが飛んできた。
「このスプーン一つですべて食べ切ってみせますが……」
「そういうチャレンジは家でやってくれ。今日はせっかくなんだから俺の真似してお洒落に食え」
そう言って、手本をみせてくれた。
どうやら、球団関係の人達などなど、接待にも慣れているらしい。
なんだか夕日出さんがモテるのが分かるような気がする。
俺様で偉そうだけど、話してみると気さくで堅苦しくない。
そして自分がかっこいいと思うか、思わないか、それだけがすべての判断基準なのだ。周りがどう思おうとかっこいいことなら迷わずやるし、かっこ悪いことは絶対やらない。ブレがなくて気持ちいい人だった。
ゴスロリ姿の私は、ホテルのレストランで結構目立っているが、夕日出さんはまったく気にしていなかった。むしろ自分が気に入ったから満足らしい。
「なあ、
「何言ってんですか。付き合いませんよ」
だが、それとこれとは別問題だ。
「なんでだよ。俺、志岐より金持ちになるぞ。楽しいデートもお洒落な会話も出来るぞ」
「志岐くんは関係ないですよ。夕日出さん、私と付き合っても浮気しますよね」
「あれ? 真音ってそういうの気にするタイプか? あんたなら浮気ぐらい許してくれると思ったんだけどな。最後に帰ってくるならいいってタイプじゃないのか?」
「最後にも帰ってきませんよね?」
「そんなこと、その時にならないと分かんねえよ」
私は大きくため息をついた。
「その女性への不誠実さが
「は! 御子柴と一緒にすんなよ」
まったくモテる男達ときたら……。
一途な廉くんが一番いい男に思えてきた。
まさか……志岐くんもモテるようになったら、こうなるのだろうか。
そうなったら……ちょっとショックかもしれない。
食事しながら、モテる男の残念なところをランキング形式で話し合っていると、突然レストランの入り口がざわめいた。
スーツ姿の団体客が個室に案内されているようだ。
食事中の客が、そちらをやけに凝視している。
中には「きゃっ」と小さな悲鳴まであげている者もいた。
何事かとそちらを見て、青目を見開いた。
そこには……。
スーツの男達に囲まれるようにして御子柴さんが歩いていた。
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