第92話 志岐君の隠し事①

「え? 志岐君の載ってるメンズボックスの見本誌が出来たんですか?」



 心霊番組の収録から二日が過ぎていた。


 今日はまた、メンズボックスのメインページの撮影で、御子柴さんと志岐君と廉君と大河原さんの4人が集まっていた。

 どうやらメンズボックス四天王として定着しつつあるようだった。


 ファッション誌というのは思ったよりも撮影してから本になるのに時間がかかる。忘れた頃に、ようやく店頭に並ぶらしい。


「志岐君はもう見たんですか?」


 隣に座る志岐君に尋ねると、ふいっと目をそらされた。


「うん。さっき見た」


 心霊番組の収録以来ずっとこんな感じだ。



 あの日、霊能者の本間尼ほんまに異蛇子いたこさんにベシベシ頬を叩かれて気付いた私を見て、志岐君は「本当にまねちゃん?」と何度も確認した。


 部屋に飛び込んだ後から記憶がとんでしまっているのだが、その間に私はどうやら志岐君に何かしたらしい。


 帰りのバスの中でも何度も聞いてみたが、志岐君は顔を真っ赤にして言葉を濁すばかりで、しまいには席を移動して小西いいかげんマネの隣に座ってしまった。



「なに? 喧嘩したのか?」

 自分の撮影から戻った大河原さんが気付くぐらいだから、明らかに様子がおかしい。


 どうやら私は余程とんでもないことをしてしまったらしい。

 完全に嫌われた。


 しゅんとする私に大河原さんが肩を組んできた。


「落ち込むなって、魔男斗。オレがいいもん見せてやるから。これはとっておきだぞ」


 大河原さんはポケットからスマホを出して画像を探し始めた。

 しかしスマホの画面はすぐに大きな手にさえぎられた。


 志岐君が掴んでいた。


「やめて下さい、大河原さん。魔男斗が嫌がってますから」



 お、怒ってる。


 いきなり全開だ。



「なんだよ、こっちにとばっちりかよ。なに機嫌悪くなってんだよ」


「別に機嫌が悪いわけではありません。とにかく魔男斗をからかわないで下さい」


 言いながら私の肩に乗っていた大河原さんの腕を払いのけた。



 いや、完全に怒ってますよね、志岐君。


◆      


「御子柴さん、御子柴さん!」


 志岐君が撮影に入ってる間に、私は衣装の着替え用に仕切られた一角に御子柴さんを手招きで呼んだ。


「なにコソコソしてんの? まねちゃん」

「ちょっと御子柴さんにお願いがあるんですけど……」


「おお、久しぶりにまねちゃんのお願いだね。こんな人気ひとけのない隅に呼び出して、色っぽいお願いかな。なになに?」


 御子柴さんは人目を忍ぶように仕切りのパーテーションの陰に私を連れて入った。


「あの……先日の心霊番組の収録から、どうも志岐君の様子がおかしくて……」


「ああ、うん。朝から思いっきりまねちゃんを避けてるよね」


「やっぱりそう思いますよね」

 さとい御子柴さんにはお見通しだった。


「収録の時、わたくし武士の霊とやらに憑依されてしまいまして、少し意識を失っている時間がありまして……」


「え? 憑依されたの? すごいじゃん」

 御子柴さんは、なんでか称賛してくれた。


「どうやらその時、志岐君に何かとんでもないことをしたようなんです」


「とんでもないことって?」


「それが……私が聞いても教えてくれないんです。だから御子柴さんなら言ってくれるかと思いまして……」


「それを聞き出せばいいんだね?」

「はい。お願いしてもいいですか?」


「オッケー。俺そういうの得意だよ」

「あ、ありがとうございます」


 さすが御子柴さんだ。頼りになる。


「あ、ちょうど撮影終わったみたいだよ。こっちに来る。まねちゃん、ここに隠れてなよ。聞こえるようにこのパーテーションの裏で聞き出してやるよ」



 神ですね、御子柴さん。

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