第91話 黒闇霧子さん (三人称)
それは一瞬だったかもしれないし、とても長い時間だったかもしれない。
はっと我に返って真音の体を引き剥がした時には、再び意識を失っていた。
片手で崩れそうになっている真音の体を支え、もう片方の手は口を押さえていた。
「な! な! なにを……!」
かっと体が熱くなった。
不意打ちだった。
こんなことをされるとは思いもしなかった。
いや、正気の彼女なら絶対しない。
何か別の存在……。
でも、触れた唇は間違いなくこの腕の中に眠る少女のもの。
「ど、どうしよう……」
思考が追いつかない。
何が起こったのか訳が分からない。
「志岐君! どうなったんだ?」
「あまりに遅いから迎えに来たんだ」
呆然と階段の上に立つ志岐に向かってスタッフがわらわらと駆け寄ってきた。
「まだ気を失ってるのか?」
「マネージャーの子だよね」
「霊能者がスタンバイしてるから、すぐに御祓いしてもらおう。連れて来て」
志岐はもう一度、真音の体を抱き上げて、なんとか平静を取り戻して外に出た。
◆
「霊が入ったようぢゃ。これは男の霊ぢゃな。昔この近くの合戦で死んだ武士の霊ぢゃ」
「え? でも……」
霊能者はシートの上に横たえた真音の頭に手を添えてうんうんと肯いた。
「そうか。
「でも、
自分が相対したのは絶対武士ではなかった。
「ああ、ちょっと離れるのぢゃ。今から憑依を解くからの」
無理矢理、引き離された。
盛大に不安だけが募る。
「おんばらさらさあ……のうまくまんだあ……きえええいい! そいやああ!」
お経のようなものと奇声を発しながら、霊能者が真音の体をバシバシ叩いている。
「あの霊能者は大丈夫なんですか?」
思わずディレクターに確認した。
「うん、まあ大丈夫なんじゃない? それより、何があったんだ? 部屋を飛び出してから中々出て来なかったけど」
「そ、それは……」
かっと顔が赤くなるのが分かった。
夜で良かったと思う。
さすがに月明かりでは顔が赤くなったことまで気付かれないだろう。
「な、何もありません。ちょっと途中で転びそうになっただけです」
自分の意志と無関係にキスしたなんて知れ渡ったら、女の子なら傷つくに違いない。
男の自分は、せいぜいラッキーだったなと冷やかされる程度だろうが、女の子はそうはいかないだろう。
絶対誰にも言ってはダメだと心に決めた。
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