第88話 心霊番組④

「おい、志岐君、そこにいるのか?」


 カメラマンも柳君を追いかけてきたため、モニターにも志岐君は映っていない。


 スタッフの一人がマイクで話しかけた。


「はい。奥の部屋の前にいますけど……。どうしますか?」



 ひええええ! 


 逃げずに進行表通りに奥まで一人で行ったんですか、志岐君?


 どんな心臓してんですかああ!


 責任感が強いのもほどほどにして下さい。


「ああ、じゃあ丁度いい。奥の部屋に定点カメラが2台置いてあるから入っちゃって。そっちのカメラに切り替えるから」



 ええ――――!!



 待って下さい! 志岐君一人で?

 だってヤバイ部屋なんでしょ?

 タレントがドタキャンするぐらいヤバイんでしょ?


「待って下さい! 志岐君一人なんて危険です! もう一度柳君も一緒に……」


「ひいいい! 師匠、非情なこと言わんといてえな。オレもう無理やねん。あかんねん」


 柳君はすでに半べそ状態だった。



 ええい! このヘタレめ!


 さっさと行って笑いの一つも取って来い!!!


「いや、最終的に誰か一人で部屋に滞在してもらうつもりだったから、手間が省けて良かった。このまま行こう」



 ええ――――!!


 そんなあ……。



「じゃあ、入りますね」

 スピーカーからは志岐君の落ち着いた声が聞こえてきた。


 カチャという音と同時に2台の定点カメラに志岐君の姿が映った。

 懐中電灯を手に部屋の中を照らしている。


「どう? 志岐君、何かある?」


「いえ特には。部屋の真ん中に古いロッキングチェアーがあります」


 モニターにはいかにもなロッキングチェアーが映っていて、志岐君が懐中電灯で照らしている。


「ロッキングチェアー揺らしてみてくれる?」

「はあ、分かりました」


 志岐君が揺らすと、キイキイと嫌な音をたてて揺れ始めた。


「すごいな彼。全然怖くないんだな」

「あのロッキングチェアーで、よく幽霊の目撃情報があるようですけど、何も起こりませんね」



 わああんん! 


 他人事ひとごとだと思ってええ!


 志岐君に何かあったらどうしてくれんだ!



「も、もういいんじゃないですか? そろそろ志岐君に戻ってもらって下さい」


 私の懇願など誰も聞いてくれない。


 小西マネめ! 

 あんたが取ってきた仕事なんだから何とかしろおお!

 ロケバスから一歩も出てないだろうがあ!



「じゃあ、ロッキングチェアー横の床に座って30分ほど様子を見てもらっていいかな」

「はあ、分かりました」


 志岐君、お願い断ってえええ!

 無理だって言って下さいいい!



 志岐君はまるで家のリビングでくつろぐように床に胡坐あぐらをかいて座った。


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