第87話 心霊番組③

 訥々とつとつと前に進む志岐君の後ろで、柳君とアイドルの子がきゃあきゃあ騒ぐお蔭で画的にはいい感じになっていた。


 でも、もし幽霊がいたら真っ先に志岐君が餌食えじきになるじゃないかああ!


 私は不安いっぱいで、食い入るようにモニターを見つめていた。


 2階に上がると、急にアイドルの子の様子がおかしくなった。

 青ざめた顔でガタガタ震えている。


「な、なんだか変な気配を感じます」


 おお、見事な演技力だ。


「気温が下がったような気がするねんけど」


 柳君は腕をさすりながらキョロキョロ周りを見回している。

 柳君もさすがに巧いな。


「う……気持ち悪い……。なんか肩が重いです……」

 アイドルの子が口を押さえ蒼白になっていた。


 素晴らしい演技力だ。


「大丈夫ですか?」

 前を歩いていた志岐君が振り向いて、心配そうにアイドルの子を覗き込んだ。


 その瞬間、モニターを見つめていた全員が「あっ!」と叫んだ。


「今、なんか黒い影が走らなかったか?」

「オレも見えた」

「オレもオレも」


 どうやらラッキーなものが映ったらしいが、皆さんもっと重要なことに気付いてないのですか?


 私はしっかり見てましたよ。


 志岐君の視線がきっちりその黒い影を追っていたことを……。



「も、もう無理です。これ以上行けません」

 柳君が青ざめた顔で訴えた。


「もうちょっとで問題の部屋だ。もう少し頑張って進んでよ」


「でも由美ちゃんの様子もおかしいし」


 どうやら二人は演技じゃなくて、本当に妙な気配を感じているらしい。


「すみません。由美はこれ以上無理だと思います」

 由美ちゃんのマネージャーがストップをかけて、スタッフ一人と一緒に迎えに行った。


「じゃあ、後は二人で奥の部屋まで行って」


「ええっ?!! 二人でですか? オレもう無理なんですけど……」


 柳君、さっきから標準語になってますよ。


 どうやら関西弁のキャラを忘れるほどに怖がっているらしい。


 その時、ダンッ! という音がして、壁にかかっていた額らしき物が落ちた。



「ぎゃああああ!!!!」



 柳君の雄叫びが聞こえ、モニターには蒼白になって駆け出す柳君が映っていた。

 カメラはその後ろ姿を追いかけている。


 階段を下りて、1階を駆け抜け玄関から飛び出す柳君が映って、実際に洋館から転がるように出て来た。


 マネージャーと一緒に出て来た由美ちゃんと玄関で合流する形になった。


「何だよ、もうちょっとなのに頑張ってよ」

 スタッフとディレクターが立ち上がって、タレントを迎えに行く。



 え?


 ちょっと待って?



 志岐君は?



 志岐君がいませんよ。



「あの……志岐君は……」


 私の問いかけに、全員がおや? という顔になった。

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