第85話 心霊番組①
「無理しなくて良かったのに、まねちゃん」
急なドタキャンで入った心霊番組の仕事は、聞いた三日後の夕方から収録だった。私は昼過ぎまで御子柴さんのマネをやってから田中マネに引き継いで志岐君と合流した。
「いいえ! 小西マネには任せておけません。万が一にも志岐君が幽霊にとり憑かれたらどうするんですか!」
私はノーギャラでいいからと懇願してサブマネージャーとして同行することを許してもらった。
都内に集合してからロケバスに乗って人里離れた廃墟に向かっていた。
小西マネは前の方の座席で相変わらず携帯をずっといじくっている。
「いやあ、師匠も一緒やと思わへんかったわ。めっちゃ心強いわ」
「……」
なぜかお笑いアイドル
お笑い枠として前から決まっていたらしい。
私と志岐君が座る席から通路を挟んだ隣でポッキーをかじりながら満面の笑みを浮かべている。
「今日の廃墟はめっちゃヤバイらしいねん。その噂聞いて、今日出演予定やった最近売れてきた若手俳優のマネージャーがドタキャンしたらしいで」
本来マネージャーとはそうあるべきだ。
そのドタキャンしたヤバイ仕事を取って喜んでいる小西マネには失望した。
「師匠は幽霊とか平気なん?」
「いえ……私は……」
実は大の苦手だった。
小学生の頃、友達とコックリさんをやったら、その晩から連日キツネの夢を見るようになって御祓いしてもらったことがある。
それ以来絶対その手のものには近付かないようにしていた。
「志岐はどうなん? 怖いもんとか無さそうやけど……」
「はあ……まあ……そういうのを怖いと思ったことはないですけど……」
いつものように落ち着いている。
志岐君がオバケに驚いて悲鳴を上げる姿なんて想像出来ない。
驚いた姿も素敵なんだろうなあ……と私はしばし妄想の世界に浸った。
◆
山奥の別荘地にポツンと建つ荒れた洋館に到着すると、すでに現場を視察していた霊能者という人に紹介された。
「霊媒師の
長い黒髪に着物姿の中年のオバサンは、真っ白い肌にキツネのような吊り上がった細目で、あんたがオバケなんじゃないの? という雰囲気だった。
負のエネルギーしか持ってなさそうだ。
名前からしてインチキくさい。
テレビ局も霊能者にだけは、しっかり予算をかけて欲しかった。
スタッフは早速機材を洋館に運び込み、カメラのアングルを確認している。
霊能者は数人の弟子らしき坊主頭に着物姿の男達を従え、お経のようなものを唱えながら洋館の周りを
「うわあああ。オレ怖くなってきたやん。どないしよ。足が震えてきたわ」
柳君は、ずっと私の袖を掴んだままだ。
志岐君はスタッフに渡された進行表を入念に読んで、いつもと変わらない。
本当に全然怖くないらしい。
驚く志岐君はどうやら見れなそうだった。
そして小西いいかげんマネはというと、外が寒いのかロケバスの中から一歩も出る気はなさそうだった。
そんなことだと思った。
やがて日が暮れて、いよいよ収録が始まった。
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