第84話 小西マネの活躍
「魔男斗、そこのジャケット畳んどいて」
「魔男斗、弁当持ってきて」
「おい、魔男斗、外の自販機でコーラ買ってきて」
大河原さんはたまに一緒になると私に用事を言いつけたがるが、さっきの反応が余程面白かったのか、さらに気に入られてしまったらしい。
「大河原さん、魔男斗は俺のマネージャーなんですけど」
「いいじゃん。同じ事務所なんだからさあ。それに俺のマネージャーは年配だから頼みにくいしさ」
大河原さんの専属マネはずっと忙しそうに携帯で電話している。
雑用だけのマネージャーは私ぐらいしかいないから、メンズボックスの仕事の時は他のモデルにも便利に使われていた。
「魔男斗、ちょっと来いよ。すげえ動画があるんだよ。見せてやる」
大河原さんは御子柴さんが撮影に入った途端、邪魔者がいなくなったとばかり、がっつり肩を組んで自分のスマホを見せようとした。
「け、け、結構です。見たくないです!」
「遠慮すんなって。これぐらいのもんには慣れておいた方がいいぞ。ほらほら」
ぎゃあああ! 変態めええ!
「大河原さん、魔男斗が嫌がってますよ」
志岐君はスマホを隠すように掴んだ。
「何だよ、お前まで邪魔すんのかよ。お前らこいつに過保護なんじゃねえの」
「魔男斗は真面目なんです。からかわないでやって下さい。あと肩を組むのもやめて下さい。重そうです」
志岐君はゆっくりと私の肩にのった大河原さんの腕をはずしてくれた。
「なんかそんな風に言われると、もっとやりたくなるんだよな」
大河原さんは志岐君の手を振り払って、もう一度私の肩に腕をかぶせた。
「……」
志岐君はポーカーフェイスのまま無言になった。
顔はいたって平静だが、その場の空気が5度ぐらい下がったような気がする。
とても静かに怒ってるような気がしますよ、大河原さん。
やばいですよ。
大河原さんは志岐君の本当の怖さを知らない。
怒ると本当に怖いんですよ。
そのまずい空気を打ち破ったのは、思いがけない人物だった。
「志岐君! やったよ!」
スタジオの隅で携帯をいじくるしか能がないと思っていた小西いいかげんマネだった。
みんなの気がそれた隙に、私はさっと大河原さんの腕からすり抜けた。
たまには役に立つじゃないか、小西マネ。
なんだか珍しく嬉しそうに寄ってきた。
「どうしたんですか?」
志岐君はさりげなく私と大河原さんの間に立ってから尋ねた。
「ゴールデンの仕事を取ったよ! 僕がこまめに営業し続けてきたから取れたんだ。新人でゴールデンって凄いよ!」
ほう。珍しく頑張ったじゃないか。
このいい加減マネも陰で努力してたんだ。
私はほんの少し小西マネを見直した。
「いやあ、ちょうど予定していたタレントのキャンセルが出たって時にタイミングよく僕が電話したんだ。僕って持ってるよね」
自画自賛はもういいから、早く仕事内容を言わんかい!
「何の番組ですか?」
「心霊特集だよ。いやあ、心霊特集って冬でも視聴率いいんだよね。凄いよ」
ん?
しんれい特集?
「しんれいというのは、もしやオバケのことでしょうか?」
私は進み出て尋ねた。
「当たり前だろ。そんなのも分かんないの」
「あの……、それはもちろんスタジオで怖い映像を見ながら、小さいワイプの中でわーとかきゃーとか言えばいい仕事ですよね」
「名も無い新人がそんな仕事出来るわけないじゃん。もちろん幽霊が出るって噂の廃墟に入って撮影する仕事だよ」
ぎゃああああ!
未来の大スターに何て仕事取ってくるんだあああ!
やっぱり最低マネだあああ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます