第83話 メンズボックス四天王

 今日は朝からメンズボックスの撮影が入っていた。


 志岐君も一緒だ。


 志岐君はカメラマンに相当気に入られているらしく、御子柴さんと一緒のメインページにも呼ばれるようになってきた。


 すっかり干されている私とは大違いだった。


「ええ? 志岐ちゃん新人のくせにもうメイン呼ばれてんの? なんかやだなあ」


 今日はうるさいれん君も一緒だった。


「最初だから珍しいだけだろ?」


 大河原おおがわらさんまで一緒だった。

 営業努力が実ったのか、大河原さんは最近トップ3まで上り詰めてきたらしい。


「ねえ、ところで御子ちゃんさっきから何食べてんの? おにぎりなんかあったっけ?」


 御子柴さんはそろそろサッカー選手のドラマが近付いていて、私のアスリート養成ランチを食べ、トレーニングを始めていた。


魔男斗まおと特製おにぎり。いいだろ」


「えー、男の作ったおにぎりなんか羨ましくないよ。僕はりこぴょんの作ったお弁当が一番大好物だもん」

 廉君はバカだけど、りこぴょんに誠実なところだけは好感が持てる。


「なんか魔男斗ってさあ、声も高いし料理も出来て、女みたいなところあるよね。もしかしてそっち系の人?」


 どっち系の人だ!


「廉くんも言葉にオネエが入ってますよ」


「ええ? ほんと? りこぴょんにも最近よく注意されるんだ。そうなのかな」


 廉君を誤魔化すのは簡単だ。


「最近ってこういう男か女か分からんヤツが人気あったりするよな。世も末だ」

 大河原さんはふんっとツーブロックの頭を撫ぜた。


 どうやら私が気に入らないようだ。


「女は女で男より下品な女が多いしな」


 どこか女性に対する憎しみを感じる。


「大河原さん、この間のドラマで一緒だったちょっとボーイッシュな女優と付き合ってるんじゃなかったんですか?」


 御子柴さんがスープを飲みながら尋ねた。


「ふん! あの女、最悪だった。ボーイッシュどころか、あれはオヤジが入ってる。すぐに胡坐あぐらをかくし、俺のことをお前呼ばわりするし、料理はへたっくそだし、そのくせ誕生日にはブランドもののバックを買えだとか言うし、超わがまま」


 うわああ。ボロカスな言われかただ。


「別れたんですか?」

 御子柴さんが尋ねると、大河原さんは苦々しい顔になった。


「もう別れたいんだけど、ちょうど映画の主役が決まった頃一番盛り上がってたから、ヒロイン役に推しちゃったんだよな。はああ、最悪。これから何ヶ月も気まずいまま、ヒロインにぞっこんのフリしなきゃなんねえ」


 うーむむ。それはお互いにきつい。


「あの女、降板してくれないかな」


 それは身勝手というもんです、大河原さん。


「おお、そういえばいいもん手に入れたんだ。お前らにも見せてやろう」


 大河原さんはそばにあるかばんから雑誌を取り出した。

 そして黙って先輩達の話を聞いていた志岐君を手招きした。


「おい、新人。お前ウブそうだから一番に見せてやるよ。ほら」


 大河原さんはコソコソと背を向けて志岐君に雑誌を開いて見せた。



「……」



 志岐君はポーカーフェイスのまま無言だ。



「なんだ? 反応薄いな。つまんねえ。おい、そこのチビ。お前見てみろ」


「はい?」


 私は呼ばれるままに覗き込んだ。


「うわっ! ダ、ダメです! 大河原さん」

 それまで平然としていた志岐君が急に真っ赤になって雑誌を抱え込んだ。


「なんだよ。さっきまで無反応だったくせに。なに急に慌ててんだよ、変なやつだな」


「いえ、と、とにかく魔男斗はウブなんで、こういう刺激の強いのはダメです!」


「そんなこと言われるとますます見せたくなるじゃん。ほら、来い。チビ」

 私はぐいっと肩を組まれて、目の前に雑誌を広げられた。



「?」




 そこには……。




 ぎゃあああああ!!

 なんて雑誌を持ち歩いてるんだああ!

 これ公共で売っていいものなのかああ!



「大河原さん、俺の専属マネに変な物見せないで下さいよ」

 御子柴さんが、気が遠くなっている私を引き戻して自分の横に座らせた。


「何言ってんだよ。これぐらい普通にお前らも見てるだろうが。なあ、志岐」


「はあ……まあ……そうですけど……」


 志岐君は困ったように顔をうつむけた。



 そ、そうなんですか。

 これが普通……。

 志岐君も見ることあるんですね。



 私は初めて垣間見た男達の生態に、少しばかりショックを受けた。


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