第81話 佐野山カメラマン
久しぶりにポップギャルの撮影だった。
しかしスタジオは閑散としていて、前のような活気がない。
そしてりこぴょんも亜美ちゃんもいなくて、よく知らない先輩モデルが一人だけいた。
編集長もメイクの石田さんもいない。
知らない顔ばかりだった。
「今日はよろしくお願いします」
先輩モデルに挨拶したが、「ああ、よろしくね」とだけ言って何だかやる気がなさそうだった。
「あの……他のモデルさんは……」
「今日は表参道でロケもやってるらしいよ。りこぴょんも編集部の主要なスタッフも全員そっちに行ってるからね」
「そ、そうなんですか……」
「あんた入ったばかりの新人じゃなかったっけ? それでもうダイエット体操にまわされたの?」
「はあ、それはどういう……?」
「あのね、ファッション雑誌なのよ? 衣装を着ない仕事ってつまりは大した利益にならない仕事なのよ。大きなクライアントが押すスキンケア商品の紹介ならまだしも、今日みたいな撮影は指名のないモデルのやっつけ仕事なのよ」
「指名?」
「りこぴょんなんかは着るだけで服が売れるから各ブランドがこぞって指名してくるのよ。それからカメラマンがお気に入りの子を指名するってのもよくあるわね。新人の亜美ちゃんだっけ? 彼女なんか第一カメラマンに気に入られてるから、早くも週2で撮影に呼ばれてるわ」
「そ、そうだったんですか?」
まだ新人だから仕事がないのだと思ってた。
す、すでに干されてたんだ……。
そういえば志岐君は週2ぐらいでメンズボックスの撮影が入ってる。
御子柴さんは分かっていたからあんな言い方をしてたんだ。
ま、まずい。
本当に無職になるかも……。
「あの、僕、今日の担当カメラマンの佐野山です。よろしくお願いします」
目の前に、なんだか野暮ったい(人のことは言えないが)若い男の人が立っていた。
前の新人撮影の時はいかにも業界人的な派手なシャツを着た人だったが、佐野山カメラマンは髪もボサボサで下っ端ADのような雰囲気の人だった。
「第三カメラマンの磯山さんが来られなくなったんで、急遽呼ばれたんです。一人で担当させてもらうのは初めてなんです。頑張りますので……」
「ふん、カメラマンまで余り者なのね」
先輩モデルは自嘲するように笑い、佐野山さんは困ったように頭を掻いた。
じゃあまずこの①のポーズをお願いします。
私と先輩モデルは黒のタンクトップに短パン姿で、簡単なイラストで描かれたポーズを指示された。
顔は簡単にギャルメイクを施してはいるが、ヘアメイクも数段腕の落ちる人らしく、先輩モデルはブツブツ文句を言っていた。
ただ元アスリートの私としてはアヒル口でポーズを決める撮影よりはずっとやり易かった。
20ポーズほどのイラストがあったが、中には片足を上げて立つポーズもあって、先輩モデルは静止出来ず苦労していたが、私は余裕で出来た。
「へえ……、さすがモデルさんだね。どのポーズも見惚れるぐらい綺麗だ」
佐野山さんはファインダーごしに感心して呟いた。
子どものように目を輝かせている。
「本当にこれでダイエットになるんですか?」
正直元アスリートからすると物足りない。
「続けてやればいい運動になるんじゃないかな。こま切れじゃなくて」
「こうですか?」
私は20ポーズを繋げてやってみた。
いつも殺陣の練習をしているせいか、型を繋げるのは簡単だった。
「うわっ。上手ですね。もう一度やってもらっていいですか? 動きがある姿も撮ってみたいです」
先輩モデルが飽きて休憩している間、私と佐野山さんは半分遊びで撮影を続けた。
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