第77話 仮面ヒーローの稽古③
志岐君へ右上段から攻撃を加える。
寸止めするつもりが止まらなかった。
やっぱりド素人が急に出来るものではない。
ぎゃあああ!!
志岐君に当たってしまううう!!
万事休すと思った私だったが、ふいっと力が横に流れた。
(え?)
左脇からもう一手。
気の抜けた一手になってしまったが、志岐君が大きく受けてくれたおかげで威力があるように見えた。
続いて右足を振り上げ蹴り出す。
志岐君は飛びのいて
さっと飛びのいてかわすはずが、目測を誤った。
志岐君の身長から考えて、あと一歩後ろに飛びのかなければならなかった。
(しまった!)
そう気付いた時には、すでに志岐君の右足が眼前に迫っていた。
ダメだ。
もろに顔で受けてしまう。
もう間に合わないと、目を瞑り顔を横に向けて頬で受ける覚悟をした。
「……?」
しかし私の顔面に志岐君の足が当たることはなかった。
驚いて目を開く。
そこには顔面すれすれで寸止めしている志岐君の右足があった。
あのスピードで出した足をよく止められたものだと思う。
しかもバランスを崩すこともなく、片足に重心をのせたまま、すらりと足を下ろした。安定した筋力とバランス感覚のある志岐君だから出来ることだ。
「ごめん、大丈夫?」
志岐君は慌てて謝った。
「おい、お前。なに謝ってんだ! 悪いのはちゃんと避けなかったこいつだろうが! しかも最後の二手と投げ込みはどうなった! アクション俳優が演技の途中でやめんな! バカ野郎が!」
すぐに監督の
「すみません」
志岐君が怒られてしまった。
全部私が悪いのに……。
志岐君は完璧だったのに……。
「次! 受け手を交代して、はじめっ!」
休むことなくすぐに逆パターンだ。
志岐君は遠慮がちに私が受けやすいようにゆっくり型を出してくれた。
しかし、その志岐君の横っ腹を突然監督が思いっきり蹴飛ばした。
思いがけない横からの暴力に、志岐君の体が床に転がった。
「な! なにをっっ!!」
私は驚いて監督に非難の声を上げた。
なんてことするんだああ!
ここが学校だったら、即刻臨時のPTA集会が開かれてるぞ!
「おい、お前!
「すみません……」
志岐君は腰を押さえながら立ち上がった。
私のせいだ。
私がちゃんと出来ないせいで志岐君が降板させられてしまう。
しっかりやらなきゃ……。
「志岐君。私なら大丈夫です。思いっきり打ち込んで下さい」
「うん」
志岐君も覚悟を決めたようだ。
本気モードの目になっていた。
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