第76話 仮面ヒーローの稽古②
「まねちゃん! ちょっと……」
廊下で豪快に服を脱ぎ始めた私に、志岐君が青ざめた。
「心配しないで下さい。下はタンクトップに見せパンです。志岐君の目の毒になるようなものはお見せしませんから」
「いや、そういう心配じゃないんだけど」
志岐君は困ったように後ろを向いた。
「それにしても女の子にまで廊下で着替えろなんて剛田監督って厳しいね」
「志岐君が元ピッチャーと聞いて目の色が変わりましたね。いいですか、志岐君。万が一、大リーグボール養成ギプスを付けろと言われても断って下さいよ」
「はは。言わないと思うけど気をつけるよ」
志岐君は最近、私のあしらい方を覚えたようだ。
部屋に戻ると、十人ぐらいの人が二人一組になって、派手に組み合っている。
よく見ると、全員例外なくマッチョな男だった。
ボディービル大会から抜けてきたような連中だ。
もれなく……。
志岐君はともかく、私は完全に浮いている。
「次はこの動きだ。おい、やってくれ」
剛田監督は私達に目もくれず、指導係らしい二人のマッチョに声をかけた。
二人のマッチョは向き合うと、一手、二手打ち合い、足蹴り、飛びのき、三手、四手、腕を掴んで投げ飛ばした。
「ほい、これやってみろ」
「はいっ!」
練習生らしきマッチョマン達は気持ちのいい返事をすると、すぐに同じように二人ずつ組んでその通りの動きをやって見せた。
ええっ!?
みんなうま過ぎじゃないですか?
一回見ただけで出来るわけないでしょ!
青ざめて立ち尽くす私と志岐君に、剛田監督はチッと舌打ちをした。
「おい、やる気がないなら帰れ! 邪魔だ」
どうやら、親切丁寧に指導するつもりはまったくないらしい。
自分で見て、体で覚えろということらしい。
「まねちゃん、大丈夫?」
志岐君は心配そうに私に小声で尋ねた。
「だ、大丈夫です。やりましょう」
あぶれた私達は必然的に二人で組む事になる。
私がちゃんと出来なければ、志岐君に迷惑をかけてしまう。
「こいつらはスーツアクターとして長年多くの作品に出て来たアクション事務所の連中だ。今回はゼグシオの手下ゼグシーマッチョ団として出てもらう。首領とナンバー2が手下より弱っちいってのは勘弁してくれよ。ダメなら中島Pに言ってすぐ交代だ」
ど、道理でうまいわけだ。
でも私達ド素人ですよ。
無茶です。
「まねちゃん、覚えた? 俺が受け手をやるから、右上段から一手、払って左脇から一手、足蹴り、俺が返すから飛びのいて避けて下から一手、二手だよ」
ええっ!?
志岐君覚えたの?
さすがです。
「はい、はじめ!」
監督の合図で、私は志岐君に教えてもらった通り、ぎこちなく型を打ち込んだ。
「なんだあ! そのへなちょこな攻撃は! 遊んでんのか! ちゃんと打ち込め!」
監督は遠慮しながら打ち込む私にすぐダメ出しをした。
「まねちゃん、思いっきり打っても大丈夫だから、遠慮なく打ち込んで」
志岐君はそっと耳打ちする。
そんな。
大丈夫って言っても、志岐君に暴力をふるうなんて……。
ちらりと他の人を見ると、当たる直前に寸止めするか、横に流して痛くないようにしているみたいだ。
(す、寸止めすればいいんだ)
「はじめっ!」
私は勢いよく右上段から手を振り下ろした。
「あっ!!」
寸止めするつもりが、止まらなかった。
ぎゃあああ!!
志岐君に当たってしまうっ!!!
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