第16話 仮面ヒーロー
「しっかし、
社長との会見後、私達は御子柴さんの部屋にお邪魔して、今後について話し合っていた。
御子柴さんはベッドに寝そべり、私と志岐君は家具が無いせいで、無駄に広いフローリングに正座していた。
「笑い事じゃありませんよ、御子柴さん」
志岐君はえらい事になったと、さっきからため息ばかりだ。
私はがばりと志岐君の前にひれ伏した。
「勝手な事してごめんなさい。前もって言ったら、志岐君絶対来てくれないと思って」
「知ってたら行かなかったよ」
「でもどうかお願いします。一度だけでいいから、全力でアイドル目指して下さい。これが最初で最後です。そしたら、私は地元に帰って、もう二度と志岐君の前に現れませんから。約束します」
床に頭をこするように頼む私に、志岐君は途方に暮れているようだった。
「女の子がここまで頼んでるんだぜ? やってやれよ、志岐」
御子柴さんは頬杖をつきながら、援護してくれた。
ちょっと面白がってる。
「でも、仮面ヒーローって……」
志岐君は更に大きなため息をついた。
社長が芸能1組に編入を許す条件は一つだった。
来週行われる次期仮面ヒーローのオーディションに行って、主役の座を勝ち取ること。
「まあ、芸能1組はドラマの主役級の仕事をする生徒のクラスだからな。仕方ないだろ。テレビドラマの仮面ヒーローは知ってるよな?」
「俺、小さい頃に何回か見た記憶しかない」
「私は見た事ありません」
残念ながら子供の頃からスポーツバカの二人だった。
「絶対無理です。それを目指してレッスンしている芸能人がいっぱいいるんですよね?」
「まあ若手イケメン俳優の登竜門だからな。俺も去年やったよ」
私は希望を見つけ、目を輝かせる。
「み、御子柴さんっ! お願いがあります」
「おお。出たね、まねちゃんのお願い」
「私達の部屋にはテレビがありません。オーディションまでテレビを見させてもらえませんか? ついでに少しコツなんかも……」
「まねちゃん。もういいって」
志岐君はまったく乗り気じゃない。
「いいよ」
しかし、御子柴さんは間髪入れず引き受けてくれ、志岐君は少し迷惑な顔をした。
「御子柴さん、面白がってますよね」
「ついでに俺の仮面ヒーローのDVDなら全部そろってるよ。見る?」
「あ、ありがとうございますっ!」
「もう、本当に勘弁してよ、まねちゃん」
どんどん勝手に話を進められて志岐君は心底迷惑そうに五百円ハゲを撫ぜた。
しかし、その志岐君に御子柴さんは、急に狼の視線になって顔を近づけた。
「俺がここまで協力してやってるんだぜ? まさか今更嫌とか言わないよな? 俺の善意に答えるように本気でやれよ」
「み、御子柴さん……」
「オーディションに落ちて俺の顔を潰すなよ。分かってるだろうな」
「は、はい……」
半分脅迫だが、この際本気になってくれるなら、なんでもありだ。
御子柴さん、ありがとう。
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