第6話 ユメミプロ 緒方社長
ひゃっと水をかけられ目が覚めた。
覗きこむ顔は四つ。
「一年の女の子が倒れてるって聞いてびっくりしたよ、まねちゃん」
一人はジムに来ていたおかやんだった。
「マネちゃん? マネージャー?」
すぐにそう連想するのは御子柴さん。
「困るよ、きみ。体調管理は自己責任だからね。他の生徒の迷惑になる」
そう言うのは、なんとユメミプロ社長兼、学園理事長の緒方社長だった。
「す、すみません」
ホットルームの外の床に寝かされていた。
超絶可愛い売れっ子アイドルを見慣れているここには、ガングロチョコポッキーを女扱いする人間はいなかった。
「うちの大事なエースが君をここまで運んだんだよ。
「え?」
社長の言葉に、私は飛び起きて最後の一人の顔を見つめてしまった。
「大丈夫ですよ。こんな軽い女の子一人で筋を痛めたりしませんよ」
屈託なく笑うのは驚いたことに志岐君だった。
な、な、なんと志岐君にお姫様抱っこ?
あああ。
出来る事なら、自分ではなく他の可憐な女の子を抱き上げる、王子様のような麗しい姿を
「今年の夏の甲子園は、我が夢見学園が全国に名を
「はい、わかりました」
社長の重すぎる期待にも、志岐君がプレッシャーを感じる事はなかった。
「お前のその精神力の強さは羨ましいよ」
御子柴さんは髪を縛っていたゴムを外して頭を振った。
思ったより長い、ウエーブした黒髪が妙に
一気に芸能人オーラが漏れ出す。
初めて彼が人気アイドルなことに納得した。
「御子柴君、明日は新作映画の舞台挨拶だろう? 早く寝なさい」
「子供みたいに言わないで下さいよ、社長。スタンディングオベーションの後のガッツポーズを決めておこうと思って志岐に手本を見せてもらってたんですよ」
そんな事まで前もって考えるんだ。
芸能人って思ったより大変だな。
「なんで志岐君に?」
「なんでって、彼の試合で見せるガッツポーズは誰より美しいじゃないですか」
「うむ? そうだったか?」
社長分かってない。
それよりさすが御子柴さん。
一流芸能人は志岐君の振る舞いの美しさに気付いてるんだ。
初めて見つけた同志。
その祈るような視線が誤解を生んだらしい。
「きみ、まさか御子柴君に構ってもらいたくて、倒れたフリをしたんじゃないだろうね?」
バカ社長め! 勘違いしないでよね!
「違います!」
私はきっぱり答えた。
「スポーツ9組にそんな身の程知らずはいないと思っていたが、自由にここを使わせるのも考えものだな。ストーカーみたいな真似はやめてくれよ、きみ」
「そ、それは……」
御子柴さんにはしないけど、志岐君にはストーカーと言って余りある行動をしているかもしれない。
「社長、この子いつも志岐の近くで女の子とも思えないトレーニングをやってるよ。疑ったら可哀想だよ」
御子柴さん。
いい人じゃないですか。
豆柴なんて思ってごめんなさい。
「御子柴君がいいなら構わないけど。きみ、たとえ陸上の成績が良くても、御子柴君に何かしたら退学だからね」
くうう、バカ社長め。覚えてなさいよ!
あんたの秘密は握ってるんだからね。
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