第67話 夕日出さんとのデート①
翌朝、私は寮の前で夕日出さんを待った。
他の野球部達を連れてきたらどうしようかと思ったが、夕日出さんは一人で出てきた。
「おはようございます。朝ご飯は食べましたか?」
「朝ご飯? なに急に? デートの開口一番がそれ? あんたほんとムードないよね。しかもデートにトレーナーとジーンズって酷くない? しかもその大荷物は何? 出稼ぎにでも行くのかよ」
夕日出さんは一応ジャケットを着ていた。
というか何でもオシャレに着こなす。
私は魔男斗マネ専用というか、それしか持ってない男装私服だった。
しかも銀行強盗に使えそうな黒のボストンバッグを持っていた。
「やっぱり食べてないんですね?」
「最近朝はコーヒーだけにしてる」
「そんなことだろうと思いました」
「それが何? 俺の話聞いてる?」
「少し駅前の公園に立ち寄りますよ」
噛み合わない会話のまま、私は公園に夕日出さんを連れてきた。
「なに? 公園デート? クソつまんねえ」
「まずは腹ごしらえです。これを食べて下さい」
私は食べやすくラップに包んだおにぎりを差し出した。
「げっ! 公園で弁当とか、いつの時代のデートだよ。最悪。くだらねえ」
「いいから食べて下さい。あと、スープもありますから。水分補給も忘れずに」
「いらねえよ。よく知りもしない女の作ったもんなんて気味悪いだろうが」
「大丈夫です。元アスリートとして、細菌予防は心得てます。おにぎりもラップでむすんでますので、
「嫌だってば。まずいもん食いたくない」
「このおむすびは、私のおむすびコレクションの中でも一番のヒット作です。御子柴さんも気に入ってくれました。たぶん美味しいです」
「御子柴が?」
夕日出さんは御子柴さんが食べたと聞いて、少し興味を持ったのか、渋々おむすびを受け取った。
「夕日出さんは食事トレーナーがついてるんじゃないんですか? どうして朝ご飯を食べてないんですか?」
「部活引退前は食べてたよ。我慢してな。社長が連れて来た食事トレーナーって、食は科学だとかなんとか、栄養成分の計画は完璧なんだろうが、料理が下手すぎんだよ。薄味でまずいのなんのって」
「でも社長が連れて来たぐらいだから実績はある人なんじゃないんですか?」
「まあ、今まで育てた選手とか言って名前を挙げてたけど、あれは我慢して耐えた選手を褒めてやりたいよ。
散々食べるのを渋ったくせに、食べ始めると、あっという間に無くなって、もう一つ要求してきた。やっぱりお腹が空いてたんだ。
「うまい、これ。何が入ってんだ?」
「じゃことゴマにしその葉を細切りにしていれてます。あと隠し味にゴマ油を少々。カルシウムにビタミンもとれるし、ゴマ油としその風味が食欲不振の人に効果大です」
「ふーん、もう一個ちょうだい」
三個目を要求してきた。
「では今度は別の種類のおむすびを。せっかくなら別の栄養素の入ったものがいいです。それからスープを。朝は炭水化物をしっかりめに、なるべくたくさんの栄養素をとらないとダメですよ。アスリートにとっては、朝の食事が一番重要ですから」
「ふーん。毎朝これなら食べるんだけどな」
夕日出さんは結局、私の出したスープも特性ジュースも全部たいらげた。
「では行きましょう!」
私達は電車に乗って、都内に向かった。
電車の中では食事トレーナーのまずい物ランキングを聞かされて、意外なほど会話は弾んだ。
話してみると案外気さくな人だった。……というか、アスリート男子って今までの経験でもお腹が満足に満たされると機嫌が良くなる。
とっても単純なのだ。
夕日出さんの気だるい雰囲気は食事トレーナーの不満からきていたのかもしれない。
そして小一時間かけて高級施設へとやってきた。
「ここです! ああ、前から来てみたかったんです! 夢のようです!」
「な、なんだよ、ここ! 冗談だろ?」
そこは都内で話題の高級スポーツジムだった。
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