第62話 御子柴さんとの喧嘩
「まねちゃん、俺に言うことは?」
車は今日は御子柴さん専用車になっていた。
いつもはワゴン車に芸能1組の人が数人乗っているらしいが、今日は後部座席に座る御子柴さんの隣りに私が乗って、助手席に柳君が乗せてもらった。
「た、助けて下さってありがとうございます」
ひどく機嫌が悪い。
「そうじゃないだろ? 何で黙ってた? この間会ったのって夕日出さんだろ?」
「は、はい。あの……女の子と一緒だったので言ってはダメかと……」
「え? 女の子って誰なん? 芸能組の子? 夕日出さん彼女おったんや」
「柳は少し黙ってろ!」
ぴしゃりと言われて柳君は大人しくなった。
「何を言われた? 全部話して」
「は、はい。あの御子柴さんの部屋を出るところを見られたので、彼女と勘違いさせたみたいで、誤解だとは言ったのですが、つい余計なことを言ってしまって怒らせてしまったみたいで。あの、全部私が悪いので……御子柴さんには迷惑がかからないようにしますから」
「それは何? 俺じゃ頼りにならないって言ってるの?」
「い、いえ、まさか!」
「まねちゃんは俺の専属マネだから。夕日出さんであろうとなめた真似されたんじゃ、俺も黙ってるわけにはいかない」
「な、何をするつもりですか! やめて下さい。私ごときの為に御子柴さんの経歴に傷でもついたらどうするんですか!」
「あのね、まねちゃん。自己評価が低いのはまねちゃんの美徳の一つではあるけどね。もっと自分を守ることも考えてくれ! こっちが心配でたまらない!」
柳君は私達の言い合いにオロオロしている。
「心配なのは私の方です。御子柴さんこそ、ご自分がどれほどの存在なのか分かってますか? その身に何かあればどれほどのファンが悲しむか。希望を失うか」
「身近なひと一人守れなくて何様を気取れと言うんだ! この身にどれほどの価値があろうが、俺は保身のために大切な物も守れないような生き方なんかしたくない!」
「だったら……」
私はぐっと拳を握りしめた。
「だったらマネージャーをやめさせて下さい。タレントを危機に晒すマネージャーなんて、私こそなりたくありません!」
「な!」
御子柴さんは驚いたように私を見つめた。
「ち、ちょっと、御子ちゃん、師匠落ち着いてや。どうなってんねんな」
教室に着くと、すでに私と柳君のことが噂になっていた。
「なべぴょん、ヤンヤンと付き合ってるってほんとぴょんか? 意外だぴょんね」
情報はやっ!
「なんか御子柴さんの車にも乗ったぴょん? いっぱい
ひいいい。恐ろしい。
見たくない。
「全部誤解ですから。誰とも付き合ったりしてないですから。りこぴょん、私の代わりに呟いといて下さい」
「そういえばなべぴょん、心は男なんだぴょんよね。うきゃあ、呟きたい」
もはや真実など一つも無い。
どうとでもしてくれい。
「ん? なべぴょん、夕日出さんともしゃべったぴょん? 呟かれてるよ」
「夕日出さん?」
それまで聞いてないような顔でレポートを仕上げていた志岐君が初めて聞き返した。
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