第58話 タレント管理

「ははは。俺が苦手だっていうの分かっただろ?」


 初撮影が終わった後、夕食を届けるため御子柴さんの部屋に寄った。

 今日は夕ご飯の手配だけを任されていた。


 都内の有名焼肉弁当が御子柴さんの好物だった。

 予約して帰りに受け取ってきた。


「まねちゃんも一緒に食べて行きなよ」

「はあ。では明日のスケジュールの確認をしながら……」


 男子芸能フロアは女子フロアと違って女子も普通に行き来できる。

 こうやって女性マネが出入りするからだろう。


「お茶を入れます」

「ああ。冷蔵庫のペットボトルのでいいよ。氷入れてね」


 御子柴さんは冬でも氷たっぷりの飲み物が好きだ。

 冷蔵庫には水とお茶のペットボトルと、袋入りのかち割り氷しか入ってない。


 流しにはカップ麺のゴミと、お菓子の食べかけの袋が散乱していた。

 しっかりしているように見えても、この辺は高校生男子のいい加減さが出ている。


「私が三食用意してるのに何ですか? このカップ麺とお菓子の残骸は?」

「夜中にお腹がすくんだよね。育ち盛りだからさ」


「御子柴さんともあろう人が夜中にカップ麺をすすってるんですか!」

「いいじゃん。たまに食べたくなるんだよ」

「この量。たまにじゃないですよね」


 私は流しを片付けながら小言をたれた。

 元アスリートの私には見逃せない食のかたよりだ。


 これまで御子柴さんの要望通りに食事を準備してきたが、その弁当も決して体にいいとは言い切れない。これが田中マネの言っていた甘やかすなということかと気付いた。


「御子柴さん! もうすぐサッカー選手のドラマが始まるんですよね! このままではダメですよ!」


「大丈夫だよ。朝晩のトレーニングはちゃんとやってんだから」


 確かに体は引き締まってはいるが……。


「いいえ! こんな食事ではスタミナが持ちません! 明日からわたくし、本格的に食事の管理をさせて頂きます!」


「えー、俺野菜ばっかりとかやだよ。味が薄いのもパス。まずいもんは絶対食べないから。ピーマンとナスも無理!」


 子供か!


「じゃあ口に合ったら食べて下さいね。絶対ですよ」

「口に合えばね。俺まずいもんははっきり言うよ。知らないからね」

「はいはい」


 この人、食事に関しては幼児だった。


「腹減った。早く食べようよ。あれ? まねちゃんは焼肉弁当買わなかったの?」


「はい。私は今日の仕事で余った弁当をもらって帰りましたから。明日の朝の分もあります」


「まねちゃんこそロケ弁ばっかり食べてない? 遠慮せずに仮払いのお金使いなよ」

「弁当がない時は使わせて頂いてます」


「先週の収支報告では一万しか使ってなかったって聞いたけど、それって俺の注文したものぐらいしか使ってないでしょ」

「はあ。先週は弁当をたくさん頂きましたので」


「日用品でも好きな物買っていいんだよ。十万は必要経費で落とせるから使わなきゃ損だと思って使いなよ」


「では明日から自炊をさせて頂きます」

「まねちゃんて料理できるんだね」


 御子柴さんは意外そうに焼肉を頬張った。

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