第57話 ポップギャルデビュー

 志岐君のモデルデビューは完璧だったというのに、その翌日の私の撮影は悲惨だった。


 志岐君や御子柴さんの撮影現場を見てきた私は、同じように仁王立ちで腕を組んでカメラを睨み付けた。


 顔はすでに原型をとどめないギャルメイクになっていた。


「なべぴょん、今から決闘でもする気? もっと笑って上目遣いで、アヒル口で」


 私がやるとリアルなアヒルになりますが、いいですか?


 女性モデルと男性モデルは求められるものがまったく違うらしかった。


 男性モデルには力強さや迫力は求められても、多彩な表情や媚は必要ではなかった。しかし女性モデルはシャッター音ごとに違う表情、違うポーズを求められた。


 りこぴょんもバカだバカだと思っていたが、その辺はさすがにプロで、見事にいろんな表情を作る。それに比べると私は木偶でくの棒のごとく動けなかった。


 何度も撮り直しになって、ワンカットさえまともに出来ない。


「なべぴょん、下手過ぎぃ。あんた今回の新人の中で一番ダメぴょんね」

 りこぴょんは正直だった。


「亜美ちゃんは一発OKだったぴょんよ」


 私の次に撮影に入った亜美ちゃんは、プロ並のポージングでカメラマンにべた褒めされていた。


「あの……なんで亜美ちゃんは亜美ぴょんって呼ばないの?」

「嫌いな子にぴょんはつけないぴょんよ」


 じゃあとりあえず私は嫌いではないということか。

 しかし、亜美ちゃんは好き嫌いが激しく分かれる子だな。


「楽しかったあ。すぐに終わっちゃってなんか残念。なべぴょんはもう一回撮り直すの? いいなあ」


 控えテーブルに戻ってくると、亜美ちゃんはクリクリの上目遣いで話しかけてきた。


 地下アイドル3組ってどんな派手な子かと思ったが、来た時のスッピンは、肩までの黒髪に大きな黒目の清楚な雰囲気の子だった。


 今はギャルメイクで少々けばけばしくなっているが、それでもどこか清潔感のある子だ。


「りこぴょんさん。私、ずっと憧れてたんです。一緒に仕事が出来て本当に嬉しいです」

「どうもぴょん」


 人当たりもいい。


「なべぴょんは芸能2組なのよね? いいなあ。亜美なんて中学からユメミプロ所属で、ファンも1000人超えたって言われてるのに、いまだに地下3組よ。羨ましいわ」


「す、すいません。私なんかが……」


 一人のファンもいない自分には場違いだと思い知らされる。


「でもしょうがないわよね。なべぴょんって男受け悪そうだもの。地下アイドル組に入っても、浮いちゃうだろうしね」


 亜美ちゃんと話していると、どんどん気持ちが沈むのは気のせいだろうか。


「ところで、りこぴょんさんは御子柴さんと会ったことありますか?」

「ないぴょんよ。れん君は仲良しだけど」


「ええっ? そうなんですかあ?」

 亜美ちゃんは大袈裟に驚いた。


「亜美は、この間収録で会ったんですう。素敵でしたよ。失敗しても俺がフォローするから任せてって言って下さって、本当に優しい人でした。今後ともよろしくって言われちゃいましたあ」


 ん?


 なんか御子柴さんのニュアンスと違うな。


「えーっ、芸能2組でも御子柴さんって会えない人なんだあ。亜美得しちゃったあ」


「芸能1組になっても、みんな仕事で忙しいから滅多に会えないぴょんらしいよ」


「えー、すごいなあ、みんな。亜美は週に二回ぐらい学校に行けるからまだまだだな。りこぴょんさんは週に何回ぐらい学校行ってるんですかあ?」


「りこぴょんはポップギャルだけだから週三は行けるぴょんよ」

 りこぴょんは、むっとして答えた。


 学校を休むのは芸能組の人気のバロメーターらしい。


「そういえばなべぴょんは最近全然学校来ないけど何やってるぴょんよ」


 まずい。


 ここで御子柴さんのマネージャーやってるとか言ったら絶対面倒くさいことになる。


「い、いえ、ちょっと風邪をひいてしまって……ごほ……ごほ」


 亜美ちゃんは勝ち誇ったようにくすりと笑った。


 ん?


 今黒いオーラが見えたような……。


「もう、うつさないでぴょんよ」


 なんか……りこぴょんの方がいい人に思えるのは気のせいだろうか……。

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