第55話 勝ち組カップル
「志岐君、ちょっと野球のことで教えて欲しいんだけど……」
「志岐君、クッキー作ったの。食べる?」
「志岐君、次の移動教室一緒に行きましょ」
なんと十日休んでいる間にクラスの中は意外な展開になっていた。
亮子ちゃんが志岐君にべったりなのだ。
「亮子ちゃんは春の高校野球のイメージガールに選ばれたらしいよ。それを口実に志岐にべったりなんだ」
浩介君が移動教室に向かいながら、そっと教えてくれた。
「亮子はもともと野球好きだぴょん。スポーツ9組の頃から志岐君に目を付けてたぴょんよ」
りこぴょんが私達の後ろから話に割って入ってきた。
そういえば都大会の時に芸能組の女の子達が志岐君を狙ってると聞いた事があった。亮子ちゃんもその一人だったのだ。
「最初は夕日出さん狙いだったぴょんよ。でもあの人、今すっかり遊び人だぴょんしね」
「え? 夕日出さんが?」
あの他人に無関心だった人が?
「ドラフト会議で人気球団に決まってから、芸能組の女の子に手え出しまくってるって話だよね」
浩介君も肯く。
「今は、ほら、なべぴょんと一緒にポップギャルに受かった地下アイドル3組の亜美ちゃんと付き合ってるって噂だぴょん」
「八木沢亜美ちゃんと……」
御子柴さんによると超ぶりっ子らしいが。
亜美ちゃんの人脈すごいな。
しかし夕日出さんが遊び人になったのはショックだ。
以前は気だるいけど、真面目で芯の通った人のような気がしたのに……。
夏に甲子園に行けなかったのが、余程夕日出さんの人生に陰を落としてしまったのか。
志岐君を関係ないと切り捨てたあの日を思い出す。
どこか荒んだ印象を受けた。
「志岐ってこのまま亮子ちゃんと付き合うのかな?」
浩介君が呟いた。
「つまんないカップルぴょんよ。プロ野球選手と女子アナみたいな勝ち組気取りカップルぴょんね」
「なるほど……。言われてみれば」
要するに美男美女で申し分のないカップルだ。
「まねちゃんは二人が付き合ってもいいの?」
浩介君が探るように問う。
「外見的には異論はないけど、亮子ちゃんて遊び人とか男を手玉にとるとか、そんな人じゃないよね?」
「まあ、普通に真面目な正統派モデルだとは思うけど……」
「優等生ぶったつまんない女ぴょんよ」
「志岐君が幸せになるなら私は賛成だけど。浩介君は反対なの?」
「うーん。俺はどっちかって言うと志岐にはまねちゃんがお似合いだと思うけどなあ」
浩介君の発言に、私は珍しく腹が立った。
「浩介君までっ! 志岐君を
しかし浩介君は困ったように苦笑した。
「いや、怒られると思わなかった。てか、他にも思ってる人いたんだ」
「やっぱりもっと距離を置かないとダメね。私が背後霊のようにうろついて、志岐君を傷ものにしてるんだわ。これからは、もっともっと遠目に柱の陰から、こっそり地味に垣間見るようにするわ!」
より一層強く決意を固める私に浩介君は、困ったように頭を掻いた。
「やっぱりそっちに行っちゃうんだよね、まねちゃんって……」
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