第49話 魔男斗マネージャー始動

 翌日の日曜は朝から都内のロケが入っていた。


 朝の四時起きだったが、御子柴さんはツーコールで起きてくれた。


 さすがだ。


 地下に降りると田中マネが待っていた。


「田中です、よろしく。魔男斗まおと君だっけ?」


 御子柴さんから私のことは聞いているらしい。


 ん?


 私を男と思ってる?


 敵をだますならまず味方からということか。

 スーツ姿で、仕事の出来る税理士のような雰囲気の人だ。


「はい。よろしくお願いします」

「今日は僕が手配したけど、次からは車の手配は魔男斗君に任せるからね」


 車に乗り込むと、田中マネは助手席に座ってあちこちと連絡をとりながら、私に仕事の手順を教え、必要な資料を渡してくれた。


 見た目通りの敏腕マネージャーだ。


「今日の食事はロケ弁当が出ると思うけど、御子ちゃんは甘いもんが苦手だから、口に合うもんがなかったら買ってきてね。まあ、あまり甘やかさない程度にね」


「どういう意味ですか、田中さん」


 御子柴さんが苦笑している。


「出来たら栄養学を勉強して、バランスのいい食事をとらせてね。この仕事は体が資本だから」


「はい。わたくし元陸上選手でしたので、食事についてはそれなりの知識がございます。ひと月もあれば陸上選手並の体を作ってみせます!」


「ははは、頼もしいね。次のドラマはサッカー選手の役だから丁度いいよ。頑張って」


「お手柔らかにね、魔男斗くん」


 御子柴さんは少し不安そうだ。


「そういえば君も午後からはモデル雑誌のオーディションが入ってたんだよね」

「はあ。一応」


 受けるだけ無駄な気もするが……。


「じゃあ午前の内に車と食事の手配を済ませて御子ちゃんが安全に寮に帰るまでの算段をしてね。とにかく御子ちゃんが寮を出てから帰るまでの道中の責任はすべて自分に任されていると思ってやってよ」


「は、はい! 分かりました」


 御子柴さんは今やナンバーワンアイドルだ。

 責任の重さを実感する。


「大袈裟だよ、田中さんは。子役じゃないんだから、自分のことぐらい自分で出来るよ」


「まあ今日は僕もずっとついているから大丈夫だけどね。一応心構えとしてさ」


「いえ。わたくし、この大役を命懸けで務めさせて頂きます!」


 私は決心を新たに宣言した。


「なんか本当に命を賭けそうだよね」


 御子柴さんはもう一度苦笑を漏らした。



 ロケ現場はまだ朝早くて人通りも少なかったが、すでに通行人に規制をかけて大勢のスタッフが撮影準備を整えていた。


 今日はもう一人の俳優と街を駆け抜けるシーンのようで、メインの俳優は二人だけだ。ロケ専用バスの中で衣装に着替えてメイクをすると、すぐに撮影が始まった。


 人通りが多くなるまえに撮影を済まさなければならないため慌ただしい。

 通りの向こうにはどこから聞きつけたのか、御子柴さんのファン達が集まってきゃあきゃあ騒いでいた。


「魔男斗君、ファンをしずめに行くよ」


 田中さんはスタッフと打ち合わせする御子柴さんを置いて、私を連れて通り向こうのファンの所に向かった。



「みなさん、御子柴の応援ありがとうございます」


 田中マネはファンに深々と頭を下げた。


「田中マネージャーさん。おはよう」

「田中ちゃん。御子柴さんにこれ渡して」


 すでにファンの間では田中マネも有名なようだった。


「今から撮影に入りますので一切声を出さないようにお願いします。御子柴は連日の仕事で疲れていますから、どうか少しでも早く撮影が終了出来るよう協力お願いします」


「きゃああ、もちろん協力します」

「御子柴君のためなら静かにします」


 うーむ、さすが田中マネ。

 ファン心理を分かってる。


「田中ちゃん、隣りの子誰?」

「思ったあ。その子誰?」


 私のことをみんな不審がってるようだ。


「御子柴の第二マネージャーです。今後は彼の指示にも協力お願いします。魔男斗、挨拶して」


「魔男斗っす。よろしくお願いします」


 私は体を二つ折りにして頭を下げた。


「可愛い! よろしくね、魔男斗くん」

「ユメミプロのタレントさん?」


 おお。誰も男と疑わない。すごいな、私。


「御子柴のそばについて勉強させるつもりだから、みんなも応援してやって」


 田中マネはファンを味方につけるのがうまい。

 敏腕マネはこうでないとダメなんだ。


「分かったあ。応援するよ」

「頑張ってね、魔男斗くん!」


「ありがとうっす!」

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