第39話 罠②
「おいおい、あんまり怖がらせるなよ。震えてるじゃん、可哀想に」
自分でも驚くぐらいに両手が震えている。
落ち着いて。
落ち着かなきゃ。
弱味を見せたら負けだ。
「こんなに震えてちゃ、箸も持てないな。俺が食べさせてやろうか?」
私は声も思うように出ず頭を左右に振った。
「遠慮すんなって。はい、あーん」
口元にコロッケを差し出され、必死で口を真一文字に閉じて頭を振る。
「なに? 俺の善意が受け取れないって言うの? ひどいなあ。どうしよっか」
怖い……。
人は本当の恐怖に晒されたら、悲鳴一つあげられないのだと知った。
体が凍り付いて何一つ抵抗出来ない。
こんなの私らしくない。
可愛く
何か反撃を……。
でも体中が震えて機能停止している。
さら……と髪を誰かがすくって流した。
「ショートカット似合うよね、あんた」
「俺ショートの女、好きなんだよな」
「スポーツ9組の女って眼中になかったんだけど、さすが芸能クラスに行くだけあって、ちゃんとしたら可愛いかったんだ」
「この男だらけの寮にあんたみたいな子がいるのって罪だよね」
「責任とってくれよ」
責任って一体何を言ってるんだろう、この人達は……。
「志岐にはいろいろサービスしてんだろ? 俺達にも少しぐらい親切にしてくれてもいいじゃん」
「そうそう。そしたらもう志岐をいじめないよ。約束する」
私はもう一度立ち上がろうとした。
しかし、すぐに両肩を押さえられる。
そのまま肩に乗せられた手が椅子に縛り付けた。
体がびくとも動かない。
怖い 怖い 怖い 誰か 誰か
食堂のおばさん達からは死角になってて見えない。
声を……声を……。
「まねちゃんっっ!!」
誰かが私を呼んだ。
誰? 誰?
動揺して頭が働いてくれない。
「あんたら、なにやってんだっっ!」
誰かが怒鳴ってる。ひどく怒ってる。
怒らないで。
怖いから 怖いから
私の肩を掴んでいた手が私の体ごと後ろに引っ張られた。
反動で椅子ごと振り向く形になる。
(志岐君?)
見上げる先にはぎりぎりと腕を締め上げて大男を睨みつける志岐君がいた。
「何のまねだ。放せよ、志岐」
じりじりと大男達が志岐君に詰め寄る。
空気が張り詰めてとがっている。
ダメだ、志岐君。
こんなとこに来ちゃ……。
酷い目に合わされるから逃げて。
ううん、行かないで。
怖いの
怖いの
巻き込んじゃダメなのに……。
ダメなのに、怖いの。
ごめんなさい……。
「女の子に寄ってたかって恥ずかしくないのか!」
志岐君はまったく
「ヒーロー登場のつもりか? はは。俺達全員を相手に勝てると思ってんのか?」
「まずはこの子を解放してくれ。まねちゃん、早く行って!」
私は慌てて立ち上がろうとしたが、体が動かない。
どうやら座りながら腰が抜けているらしい。
それでも立とうとしたら、ぐにゃりと地べたに座り込んでしまった。
「……」
志岐君は一瞬驚いたようだが、すぐに状況を理解して平静に戻った。
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