第31話 悪の首領 ゼグシオ
「こ、これは……」
私達は、各配役のイメージイラストを見て絶句していた。
それぞれの役柄の変身前と変身後のイラストが描かれている。
仮面ヒーローは普段は革ジャン好きの青年で、変身すると超合金のかぶりものになるらしい。
ヒロインは普段は高校生だが、本当は異世界のお姫様という設定らしく、マリー・アントワネットも真っ青なドレス姿になる。
いや、それはいい。予想出来る。
問題は志岐君演じる悪の首領ゼグシオだ。
普段姿の時から、長い黒髪を頭上五十センチまで引き上げ、ムースでカチカチに固めた後、腰まで垂らすという、こんなヤツ絶対歩いてないだろうイラストだ。
しかも黒いアイシャドーと黒い口紅でメイクするように描いてある。
まったくもって現実離れしているのに、服は応援団のような黒色の長い学ランだった。
変身後の黒マントをつけた魔法使いのような恰好の方がむしろ現実とかけ離れている分、恥ずかしくないだろう。
この役に志岐君を選んだこのプロデューサーは何を思って決めたのだろうか。
このとんでもない髪型のカツラをかぶるのだから五百円ハゲを隠す心配はないけれども。
不安げにチラリと志岐君を見ると、無表情のままイラストを凝視している。
しかしよく見ると耳だけ真っ赤だった。
どうやらポーカーフェイスの訓練をしてきた志岐君は、耳だけ訓練し忘れたらしい。真面目でスポーツ少年だった志岐君には耐えられないほどの
そして私、ゼグシオの側近ゼグロスは、『ゼグシオに準ずる』とだけ書いてあった。
じ、準ずるって?
一体どんな姿ですかあああ?
「大体のイメージは、イラストの横に書いてあるから、撮影開始までにそれぞれ役作りをしてきて下さい。台本が仕上がったら事務所の方に送りますので、台詞もしっかり入れて来て下さい」
中島Pがしめくくって、解散となった。
どうやら側近ゼグロスは、まだイメージが出来上がってないか、即興でもいいレベルのどうでもいい端役のようだ。
悪の首領ゼグシオ様には、暗い過去を背負う寡黙な男だの、他人に無関心な冷血漢だのいろいろ書いてある。
暗い過去を持つ男がどうして、こんな奇抜な髪型を恥ずかしげもなく出来るのか分からないが、これはもう悪に
「俺、出来るかな……」
志岐君は最近弱音を吐く事が多くなった。
「あんたたちユメミプロだって?」
いつの間にか、キンタプロの二人が傍に立っていた。
近くで見ると、二人とも細い。
「志岐です。よろしくお願いします」
志岐君が立ち上がると、仮面ヒーローは子供かと思うぐらい華奢な少年だった。
「あ、あんた、でかいな。芸暦何年?」
大井里君は志岐君の身長に圧倒されている。
「これが初仕事です」
しかし、その返事を聞いて急に横柄な態度になった。
「なんだ新人か。道理で見た事ないと思った。僕は子役時代からやってるから、もう芸歴十年なんだ。ココちゃんも八年だよ」
「ねえ、ユメミプロって事は御子柴さんにも会った事あるの?」
ココちゃんと紹介された女の子は目をキラキラさせて可愛く小首を傾げた。
見せる可愛さが完成されている。見事だ。
「はあ、学校の先輩ですし……」
「きゃああ! いいな、いいな。今度紹介してね。お願い!」
ココちゃんは同性の私ではなく、志岐君の手を両手で包んで見上げるようにおねだりした。
うん、完璧だ!
私は一歩後ろに下がって、この奇跡のような光景をうっとり眺めた。
可愛い女の子におねだりされて困る志岐君。
なんて夢のような光景だろう。
このツーショットが見られるだけで、このドラマをやる価値はある。
とりあえず楽しみになってきた。
大井里君は、変なハゲのあるやたらでかい男と、何が嬉しいのかにやにやほくそ笑む色黒女に、ユメミプロも質が落ちたな、とでも言いたげに眉間を寄せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます