第30話 仮面ヒーロー顔合わせ

 私達は何度かおかま講師の所に通いながら、新しい生活に少しずつ慣れてきた。


 そして、来期の仮面ヒーローの顔合わせが日曜にテレビ局で行われる事になった。


 寮には、いかにも下っ端のマネージャーが迎えに来た。

 小西といったっけ。


「次からは自分で行ってね」


 ため口の、フリーターあがりのような無精ひげを生やした二十代のおっさんだ。

 もちろん電車利用だ。


 メンズボックスに付き添った時の御子柴さんとは大違いだった。


 御子柴さんには行きも帰りも車が迎えに来たし、つきっきりの敏腕マネージャーが普段は必ずいる。


 まあ、電車なんか乗ったらファンに取り囲まれるから当然なのだが。

 立場の違いが身に滲みる。


 小西下っ端マネは、テレビ局に入って会議室のような部屋の前に仮面ヒーローの張り紙を見ると、「そこね」と指で示して「じゃあ下のロビーで待ってるから」と言って、もうスマホをいじりながら行ってしまった。


 こら、他の役者に挨拶回りとかいいのか!

 仕事しろ! この無責任マネめ!


 ここは私が脇役兼、志岐君のマネージャーをするしかあるまい! 

 私は意を決して、会議室のドアを開けた。


 中にはすでに二十人ばかりの人が四角くテーブルを並べて座っていた。


 おいいい!

 遅れてるじゃないかあ!


 ド新人の私達は一番に来て、待ってるもんじゃないのか!

 下っ端小西め!


「お、遅れてすみません。ユメミプロのこちらが志岐走一郎と、わたくしマネージャー兼端役をやらせて頂きます、神田川真音です」


 私は体を勢いよく二つ折りにして頭を下げた。


「ああ。遅かったね。君達待ちだったよ」


 オーディションで会った小柄な紳士のプロデューサーが奥で立ち上がった。


 一見優しげな外見だけど、するべき注意は躊躇ちゅうちょなく言う人らしい。


「すみませんっ! マネージャーの私の不手際です」


 志岐君は何か言いたそうに、口を開きかけたが、すぐに空気を読んで一緒に頭を下げた。


「遅くなってすみませんでした!」


 ここはごちゃごちゃ言わずにシンプルに謝るのが一番いい。


「次から気をつけてね。そこ、座って」


 私達は入り口付近の二席に座って、ようやく集った面々を見回した。


 監督さんやスタッフらしき人たちと、ちょっと見た事ある中年俳優に、若い男女が数人いた。


 プロデューサーのすぐ横に座っているのが、たぶん主役の仮面ヒーローだ。


 なんかなよなよした女みたいな顔の男だ。

 この軟弱な男に悪者退治なんて出来るのか?

 私なら絶対命を預けないぞ。


 その隣りに二人組みのきゃぴきゃぴした女の子達が座って、こっちを見ながらコソコソしゃべっている。ヒロインとその友達というところか。


「じゃあ、自己紹介から始めようか。私はプロデューサーの中島です。よろしく」


「仮面ヒーローPWの大井里おおいざと竜二です。キンタプロ所属です。よろしくお願いします」


「ヒロイン役の和歌泉ココです。同じくキンタプロです。よろしくお願いします」


 同じ年ぐらいだろうか。

 可愛いけど、妙な色気が大人びて見える。

 色白いなあ。


 その隣りの子分のような女の子と、志岐君の頭を見てクスクス笑っている。


 琴美ちゃんに言われてから、野球帽を被るようにしている志岐君だが、さっき頭を下げた時に脱いだらしい。


 遅刻して帽子を被ったままというのは礼儀に反する。仕方ない。


 でも帽子の意味がなかった。

 まあ、もう少しで髪も伸びる。

 あと少しの辛抱だ。


 スター志岐君の覚醒かくせいの時が近付いていた。

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