第29話 心は男です

 翌日学校に着くなり、どっちの派閥か問い詰められた私は、ついに御子柴さんの悪知恵通り、カミングアウトしてしまった。



「え? まじで? 初めて見たぴょん」

「心は男ってことは女が好きってこと?」


「やだ、怖い――っ」

「ああ、それで体鍛えてたぴょんね?」

「胸も筋肉みたいだもんね」


 妙に納得されてしまった。

 むしろ正しい所におさまった感がある。


「な、なのでわたくし、男子グループに入らせて頂きます。では失礼」


 私は一礼して男子五人組の所に割り込んだ。


 志岐君以外は、気味の悪いヤツが入ってきたと引き気味だが、この際我慢してもらおう。


「みなさん、私の事はお構いなく。男と思って接して下さって何の問題もございません。雑用係として使って下さっても構いません」


 男子組はしらーっと私を見ている。


「俺、明日から舞台が入ってるから当分学校来ないし」

「俺ももうすぐ沖縄ロケが入ってるから」


「え? そうなんですか?」


 みんな多忙な人ばかりだ。


 もう一人黒縁眼鏡をかけた、静かな感じの男子が初めて微笑んでくれた。


「俺、駆け出しのシンガーソングライター、大野平おおのだいら浩介。よろしくね」


 手を差し出し、握手をしてくれた。

 志岐君が一番仲良さそうにしている人だ。

 やっぱりいい人はいい人を呼ぶんだな。


「大野平君もメンズボックス受けるんですか?」


 志岐君とはライバルになるかもしれない。


「いや、メンズボックスは身長制限あるからね。規定では175以上になってるけど、実際は180ないと受かるのは難しい」


 そういえば昨日会ったモデル達もみんな背が高かった。


「志岐は余裕でクリアだろうけど、話に聞くとメンズボックスって結構人間関係きついらしいからね」


 そういえば面倒そうな先輩がいた。


「だったらやめた方が……」


 それでなくても寮では相変わらず先輩達にいじめられている。


「俺は寮費を稼がないとダメだから、とりあえず何でも受けてみるよ」

「でも嫌な人が……」


 昨日会った大河原さんが、志岐君に優しくするとは思えない。


「俺は上下関係の厳しい野球の世界でやってきたんだよ? 大丈夫だよ」


 確かにいまだに続く野球部からのいじめの方が壮絶だ。

 寮の部屋が前のままの私達は、結構肩身の狭い思いをしている。

 社長はその辺の気遣いがまったく無かった。


「なんか寮って大変そうだね。俺は都内に家があるから良かったよ」

「大野平君って東京育ちなんだ」


「うん。浩介でいいよ。俺も、えっとまねちゃんって呼んでいい?」

「え? うん、もちろん」


「本当は真音まおとちゃんだよね」


「真音?」

 志岐君は首を傾げた。


「神田川真音ちゃんだったよね?」

 大野平君はフルネームを覚えてくれていた。


「神田川?」

 志岐君は初耳のような顔をした。


 いやいや、小・中・高と最低でも十回ぐらいは私の名前を聞いたはずですよ、志岐君。


 いまだに真根真似子だと思ってたんですか。

 本当に私に興味なかったんですね。


 いいけど……。

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