第24話 演技レッスン①

「あっはははは。傑作」


 夕方、私と志岐君は演技レッスンのため、御子柴さんに都内のレッスンスタジオへ連れて来てもらった。


 車の中で芸能組初日の様子を志岐君から聞いた御子柴さんは、さっきから笑い続けている。


「笑い事じゃないです。明日までにどっちに入るか決めなくちゃならないんですから」


「まあ噂には聞いてるけどね。代々その二つの雑誌モデル同士確執があるってね」


「代々? どの学年もですか?」


「特に今年の新入生はエックスティーンの飯田山亮子とポップギャルの前川橋莉子という人気モデルが一緒に入学したから激しいらしいね。まねちゃんも大変だ」


「男子は五人しかいないけど、いいやつばっかりだけどな」


 志岐君が気の毒そうに続けた。


「男子は芸能1組の方が人数もいる分、面倒なヤツが多いな」


 言いながらも御子柴さんには余裕を感じる。


「私も男子が良かったです」


「いいんじゃない?」


 御子柴さんはにやにやと応じる。


「いいってなんですか?」


「心は男なんですって言ってみれば?」


「そんな大嘘……」


「そういえば芸能2組は、秋に全員モデル雑誌のオーディションを受けるらしいね」


「ええっ? 私もですか?」


 受かる気がしない。


「モデルはいろんな仕事の足がかりになるしね。俺もメンズボックスの専属やってるし。志岐も受ける事になるだろ?」


「え? 男も受けるんですか?」


 志岐君は自分は無関係と思っていたらしい。


「専属が決まれば寮費が払えるぞ」


「それは助かりますけど、俺モデルなんて無理だと思うんですけど……」


「まだそんな事言ってんのか? いい加減覚悟を決めろよ」


「やりましょう! 志岐君! わたくし微力ながら応援させて頂きます!」


 志岐君がモデルと聞いて、私は俄然がぜんやる気になった。

 モデルになれば、あんな志岐君やこんな志岐君が雑誌で見られるのだ。


 すっかりやる気になった私に、志岐君は不安を滲ませ、御子柴さんは愉快そうに笑った。



 レッスンスタジオには小学生から高校生までの大勢の生徒と、その母親が数人いた。


 私達が部屋に入ると、御子柴さんを見た母親達から歓声が上がった。

 生徒達も尊敬の眼差しを向けている。


「いらっしゃーい、御子柴くうん。好き」


 揉み手で近寄ってきたのは、講師らしい明らかな中年のおかまさんだった。


 トレーナーにチノパンを履いた普通のおっさんだが、御子柴さん好き好きオーラが出まくっている。


「こちらがレッスンを受けるっていうお友達? 忙しい御子柴君みずから連れてくるなんて、ほんと面倒見がいいわねえ。好き」


「いや、俺も久しぶりにレッスンを見学して初心に帰ろうと思ってたんで」


「まあ、なんて謙虚なの? 好き」


 合間合間に告白しすぎだろ、おい。


 御子柴さんは慣れているらしく、あしらいがうまい。


「仮面ヒーローの脇役ですって?」


 おかま講師はジロジロと私と志岐君を上から下まで見回した。


「あなたいい体してるわねえ。何かスポーツやってたの?」


「はあ、野球を……」


「悪くないわ。好き。まずはみんなの演技をここで見てなさい」


「はい」


「ああ、あなたもついでにね」


 どうやら女の私に興味はないらしかった。


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