第23話 モデル派閥②

「誰? この子?」


 エックスティーンの亮子軍団が先に見慣れぬ黒女に気付いた。


「スポーツ9組から編入だって。仮面ヒーローの脇役に野球部元エースと一緒に決まったらしいわよ」


 亮子さんは男子に囲まれている志岐君をチラリと見てから、私に視線を移した。


「彼の事は聞いていたけど何でこの子まで?」


「思ったあ。こんなブスがいきなり芸能2組に編入したんじゃ、必死で目指してきた地下3組や普通科の子がかわいそうよね」


 はっきりブスって言ったな、こら!


「まあ、ブスはブスだけど背は高いわよね。スタイルは悪くないわ。ブスだけど」


 え?


 ブスってそんな気軽に初対面の相手に投げかけていい言葉だったっけ?


「いいわ。そのスタイルに免じて私のグループに入れてあげるわ。ブスだけど……」


「え? あの……」


 有無を言わせぬ悪口に反論すら出来ない。


「なに言ってるのよぉ。こういう不細工な顔はギャルメイクをすれば激変するのよぉ」

「そうだぴょおん。私達のグループに入ったらぁ、メイクで変身させてあげるぴょん」


 りこぴょん軍団が話に割って入ってきた。


「ね? 私達の方に入れてあげるっぴょん」


「い、いえ……その……」


 どうやらどっちかの派閥に入らなければ、このクラスでは生きていけないらしい。


「何言ってるのよ。背が高いことがこの子の唯一の取り得なのよ。チビばっかりのポップギャルにはなじまないわよ」


「バカ言ってもらっちゃあ困るぴょん。このガングロがエックスティーンになじむと思うの? こっちはガングロもウェルカムぴょん。あんた達みたいに万人受けの媚び媚びメイクしか出来ないごますり女とは違うぴょん」


「なんですってええ!」


 なんでか私のせいで揉めてるようだ。


 オロオロと志岐君の方を見ると、心配そうにこっちを見ていた。

 周りの男子達は、いつもの事なのか慣れたように傍観している。


 優しい志岐君は、こんな私でもスポーツ9組のよしみで助けようとするかもしれない。


(ダメだ。志岐君を巻き込んじゃ)


 自分で何とかしなければ……。


 でも、どうやって?


 女子の軍団は、どんどん私に攻め寄って自分の派閥に入れと迫ってきている。


 どっちかに決めなくては……。

 でもどっちも嫌だあああ。


「ちょっと、聞いてるの? こうなったら、あなたが自分で決めなさいよ」


「あんたはどっちがいいぴょん?」


「もちろん私達よね。ブスは気にしなくていいわ。目をつむってあげるから」


「私達はブスもウェルカムだぴょん」


「早く決めなさいよ。ブスでもいいって言ってるでしょ?」


「こっちだってブスでもいいぴょん」



 眼前にまで迫り来る女子の迫力と、志岐君に迷惑をかけてはいけない焦りとで、私はすっかりいつもの悪いクセが出てしまった。


 ポーカーフェイスの志岐君と真逆の体質。

 感情が高ぶると抑えが利かない。



「ぶ……」



「ぶ?」



「ぶ……」



 女子の視線が一斉に私の次の言葉を待つ。



「ブスでごめんなさあああいいい。うおおおおん。おんおん」



 またしても獣のように号泣してしまった。

 目の端に志岐君が爆笑している姿が映った。

 どうやら大して心配してなかったようだ。


 考えてみれば当然だ。

 志岐君に私を助ける義理はない。


 いろんな思いでおんおん泣き続ける私に、女子達は呆れたようにため息をついた。


「もういいわよ。明日までに考えてきなさいよ」



 とりあえず保留になった。

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