第22話 モデル派閥①
芸能組の授業は案外普通だったが、音楽はボイストレーニングだったり、国語は演技指導だったり、特殊なものもあった。
体育はもちろんダンスレッスンだ。
志岐君のダンスはどんなものかと色めきたった私だったが、残念ながら志岐君は恥ずかしがってラジオ体操のようになっていた。
しかし、これは楽しい。
見た事のない志岐君だらけだ。
これはどんな汚い手を使っても、芸能組にしがみつかなくてはと、私はすでに覚悟を決めていた。
「はあ。俺ついて行けるかなあ」
ハードなトレーニングには弱音一つ吐いた事のない志岐君だったが、勝手の違うレッスンの数々にため息をついていた。
「大丈夫! 志岐君が一番美しいから」
「そう思ってるのまねちゃんだけだから」
志岐君は、私のストーカー発言にも慣れたらしく苦笑した。
昼休みになってデリバリー弁当をつついていると、華やかな一団が教室に入ってきた。
「あ、亮子ちゃん、おはよう!」
二・三人の女子が嬉しそうに駆け寄る。
亮子ちゃんと呼ばれた長い黒髪の女子は、170センチある私よりも背が高そうだった。後ろについて来た二人も170ぐらいだ。
「今日はどこで撮影だったの?」
「今日はスタジオで朝から50枚は着替えたわ。もう疲れちゃった」
そう言いながらどこか嬉しそうだ。
「凄い。ピンピンの服? アッシュの服?」
「どっちもよ。どっちのクライアントも私に着て欲しいって言うんだもん。仕方ないわ」
なるほど。あからさまな自慢だな。
「わああ、いいな。新作でしょ?」
「もちろんよ」
どうやら、なんかの雑誌のモデルらしい。
面倒臭そうなタイプだ。関わらないでおこう。
モデル軍団の騒ぎが収まった頃、今度はド派手な二人が現れた。
こちらはどっちかと言うと小柄だ。
撮影のメイクのまま来たのか、二人ともオペラ歌手のようなつけ
そして似たような女子が数人駆け寄る。
「りこぴょん、おつかれっぴい」
ん? おつかれっぴい?
「おはよう、うっぴい。おくれてめんご」
これは解読が必要なレベルかもしれない。
「今日は何の撮影だったぴょん」
「原宿デート特集だったぴょん。ぴょん」
「きゃあん。うらやまぴー」
「廉くんと朝から会えて超絶幸せぴ――。ぴっぴのぴ――」
……と聞こえたが定かではない。
これは結構なバカかもしれない。
「廉くんがあ、りこぴーのことぉ、帰したくないって言うからぁ、学校休もうって思ったんだけどぉ……」
ふむふむ。廉くんも相当なバカだな。
「マネマネが行けって言うからぁ……」
マネージャーの事か。うむ。解読出来たぞ。
「ぐすん。廉くんに会いたくなってきたぁ」
間違いなく馬鹿だな。漢字で書く方だ。
私は昨日まで過ごしたストイックなアスリート世界との違いに不安を覚え志岐君を見た。
さぞ不安がっていると思ったが、志岐君の周りには数少ない男子が群がっていて、すっかり打ち解けているようだった。
後で聞いた話だが、芸能2組は、女子は『エックスティーン』と『ポップギャル』という雑誌のモデルが派閥を作っているが、男子は舞台俳優やシンガーソングライターなど、地道な活動をしている比較的まともな男子が多いらしい。
気付けば、異世界に取り残された私に、女子達の視線が集まっていた。
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