第3話 冒険者セイス
「古の塔周辺に異常なし、と。塔全体に張った時空間結界も問題ないな」
セイスは塔周辺と結界を確認しつつ風の
(ゲッテンに着いたらとりあえず温泉だな。そしてうまい飯、肉、酒、女、つまり接待酒場だ!まってろ、我がいとしの桃源郷よ!)
ゲッテンの街に帰った後の予定を考えつつ初夏の風を受けるセイス。
今のセイスは完全に冒険者としての顔をしていない。一個人の私的なセイスがそこにいる。顔を緩ませ欲を隠しもしない青年セイスだ。
楽し気に鼻歌を鳴らしながら、加護で満たされた大空を故郷へ向け飛んでいく。
陽暦が8月に入った。
セイスはゲッテンの街に到着し、城門側の守衛所へ舞い降りる。
「おぉ、セイス殿、誠に久しいな!何年ぶりだ?」
守衛担当の騎士が驚きを含みつつ笑顔でセイスを迎え、セイスは茶化す様に守衛担当の騎士に返答する。
「アルドラン!元気にしてたか?3年と8ヶ月ぶりか、いや、本当に帰ってきた感じがするよ、ドレイアの怒りし斧殿の顔を見るとな。街の状況はどうだ?」
「ガハハハハ、好色男、千人切りのセイスが数年留守にしたおかげで街は平穏そのものよ!」
「人聞きの悪い事を言うなよアルドラン。俺はな、貴族の血縁者や人様の物とか手は出さない主義なんだよ。それと求婚してくる娘や聖女とか御免被る性だって知ってるだろうが」
顔をむくらせ子供のように反論するセイスを、豪快に笑いとばしたアルドランはこらえる様に入場手続きを指示する。
入場手続きには守衛所にある水晶に自分の魔力を込め、登録者であればそのまま入場できる。未登録者はその場で登録し手数料を支払ってからの入場だ。
「悪い悪い、久しぶりだったもんでよ。街に入ってギルドへの報告を済ませたら辺境伯の屋敷にいってくれ。ドレイア伯がお待ちだ」
アルドランの指示に不思議な返答をするセイス。
「どっちのドレイア伯だ?」
セイスの言葉にニヤリと笑いつつアルドランは言った。
「両方だ。あぁそれとおてんば嬢ちゃんもおまちかねだそうだ」
その言葉を受けたセイスは、疲れが一気に噴出したようにうなだれつつ、アルドランヘ背中越しに上げた手を弱々しく振りながら街へ、とぼとぼと入っていく。
その様子を見たアルドランの笑い声はいつまでも鳴りやまなかったのであった。
「いらっしゃい!いらっしゃい!オーク肉の大特価日だ!安いよ!」
「武器、防具の買い替えはうちの店、トンドル商会へ!店内をみてってよ!」
「ゲッテン名物、温泉で茹でたロック鳥のたまごだよ!たべてきな!」
「酒場といったら当店、ゲッテンの泉に間違いないよ!寄ってけ飲んでけ騒いでいけ!」
「飲んで食べて疲れた体を癒す、医療品の店長命の丘をご利用ご利用!」
「ゲッテン名物の温泉風呂や名物料理も盛りだくさん!宿屋といえば日の入り旅館!いらっしゃい!」
表の中央通りを挟み、あらゆる店が軒を連ねる。辺境独特の荒々しい活気に満ちた呼び込みの声が響き渡る。
──リベルタリア公国ドレイア辺境伯領ゲッテン
人口15万人ほどの辺境領中心街だ。
辺境地らしく魔物や魔獣の質も桁違いで量も多く、首都リベルタリアからも遠い。
そんな辺境の地に定住もしくは交易にくる人間・亜人の種類は限られてくる。否、洗練されるといったほうが正しい。
皆、一定の強者でなければまともに生活ができないからだ。
そんな強者が集まると必然的に治安が悪くなる。だが、この街には警備と治安維持の玄人集団がいる為、治安も良い。
その集団とは、先ほど城門の守衛所でセイスを迎えた壮年の騎士、アルドラン・キーファを団長とするドレイア辺境騎士団だ。
総勢3000名の彼らは団長の薫陶よろしく日々壮絶な訓練を重ね、リベルタリア公国の剣といわれる程の精鋭集団だ。
街の治安維持やゲッテン周辺及び辺境領の魔物や魔獣の討伐、野盗や侵略者の排除等優秀な騎士団らしさを発揮している。
セイスは中央通りをとぼとぼと真っ直ぐ歩いていく。
目的地は冒険者ギルド。
中央通りは途中二股に分かれる。左側は歓楽街、右側は辺境伯や貴族の屋敷がある領主街区だ。
その分岐点の中央に冒険者ギルドがある。
正面奥に受付カウンター、左側に軽食兼酒場、右側には依頼用紙がランク別に数多張り付けてある掲示板があり、多数在籍している腕自慢の冒険者達が所せましと依頼を品定めしている。
セイスがギルドに入った瞬間、そこにいた全ての者が凝視し、息を飲み込む。と、次の瞬間── 一人の冒険者が叫び、同時に歓声とどよめきが沸き起こる。
「セイスだ!セイスがかえってきたぞぉおおおお!」
『『『おぉー!』』』
セイスはその歓声に力なく答える。
「ただいま……爺はいるかぁ……?」
『『『お、おぅ』』』
セイスのあまりに落胆している様子を見て、ギルド内の者達はざわめきはじめる。
「おいおい、まさかセイスが依頼とちったのか?」
「なにいってんだよ、とちるわけないだろ。Sランク探求の大博典だぞ」
「いやでもあの様子よ、相当な事があったに違いないわ」
「どうせ旅先で女に振られたんだろ?」
「あぁたぶん、それだ」
「かわいそうじゃない、やめなさいよ」
言いたい放題である。だがセイスは気に留める様子をみせずカウンターへ足を運ぶ。
「セイスさんお帰りなさい」
受付嬢のレーナが笑顔であいさつをする。清楚ないでたちのかわいい女性だ。
挨拶を受け、セイスはうなだれた姿勢を戻し、笑顔をみせる。
「あぁ、レーナ久しぶり。彼氏できたか?」
挨拶がてらレーナのふくよかな胸を揉むセイス。
その瞬間カウンターにあった受付ボードがセイスの頭部に突き刺さる。
「ぐぉ……軽いあいさつだろ……」
「えぇ、普通の挨拶ですね」
レーナはにこにことセイスへ用件を確かめる。
「ギルドマスターに御用ですよね、本日はいらっしゃいますので2階の執務室までご一緒します」
「……了解」
レーナに先導されて二階への階段をあがっていく。
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