第2話 冒険者セイス
「これから準備をするのでしばらくお待ちいただきたい」
『──よかろう』
「グルルゥ……」
セイスは大妖精スルタードに許可を取り準備に入る。なぜか気持ちうれしそうにダリオロスも返事をしたのが可笑しかったのか、セイスは口を少し緩ませつつ作業に入った。
(丸3日戦い続けて認めてくれたってことかな?)
時空間の
するとその物体は形を、
社の扉を開け、中を確認するとセイスは大精霊スルタードに告げる。
「加護開放の準備は整いました。炎の大精霊スルタードよ、社に加護を納め賜へ」
──すると社に小さき炎が灯る。
『盟約は果された。また縁があるならば再び相まみえようぞ、英雄よ──』
すると社は島の地に沈み始めた。
「グルゥ……グルゥ」
別れを惜しむかのようにセイスへ自分の頬をこすりつけた後、ダリオロスは翼を羽ばたかせ曇天の中へ消えた。
(みかけによらず寂しがり屋なのか?あんな図体して。ふふっ、これだから世界は面白い)
そう思いながらダリオロスを見送りつつ、セイスは風の絨毯に魔力を込めると北へと向かう。
──目的地はディスペリアの中心にある古の塔。
(にしても、本当にとんでもない依頼押し付けてきたよなぁ……。
道中風の絨毯に寝そべり、セイスは依頼内容を説明したギルドマスターに苛立ちを抱きながら空を仰ぐ。
煉獄の島を出てから約20日、彼はまだ海上をゆったり北上している。
道中食べ物に困らないのは理由がある。あらゆる物体を収納し、収納した時の状態にとどめる事が出来る時空の
空腹を覚えると怠そうに起き上がり、時空の法衣から調理され皿に乗った肉料理と焼きたてのパンが数個入った袋、そして金属の瓶を取り出し、食事の準備をする。
空の瓶に魔法で水を注ぎ、一口飲んでから肉とパンをゆっくりと食べる。
セイスは食事を終え空の瓶を時空の法衣に収納しつつ法衣の模様に目を向けた。
目に止めた模様は陽暦を示す円状の12星で、天から右回りに6目まで淡い紫色の灯がゆらめいている。
(依頼を受けて旅立ってから大体3年と半年か──ドレイアの連中は元気にやってるかな?まぁ爺やジルがいるから滅んでるって事はないだろう。あ、おてんばファーラの存在をすっかり忘れてた……。あいつら磔にされて朽ち果ててないだろうな!?)
ファーラという人物の存在を思い出したセイスは背筋に冷たい何かを感じ、風の絨毯に多めの魔力を込め速度を上げる。
古の塔で作業を済ませ、依頼を完了し拠点である辺境の街ドレイアに急ぎ戻らなければと。
煉獄の島を出て50日──
途中川辺で潮風にさらされ続けた体を洗い、それから近場の街によって食糧を調達してから急ぎ絨毯に乗り古の塔を目指す。
そして3日後──
「目印の大霊樹が見えてきた!ようやく着いたぞぉおおおおおおおおお!」
古の塔の側に生える巨木を確認したセイスは思わず叫んだ。
なにしろ3年と7ヶ月以上の旅の終焉が見えたのだから。
──想像を超える苦難の連続
並の冒険者なら各目的地に着くことはおろか、見つける事も出来ない、世界の果てにある4大精霊の封印されし地。
高度な魔法知識と技術を持ってなければ破る事の出来ない邪神の封印結界。
最大の関門、4大精霊から加護を受ける際に立ちはだかる大精霊の試練──
風の大精霊シルヴェストーラの呪い
水の大精霊オールディーヌの気まぐれ
地の大精霊グノーシオンの大岩石迷宮踏破
炎の大精霊スルタードの眷属、ダリオロスとの激闘
乗り越えて来たのだ、セイスはたった一人で乗り越えてきたのだ。
誰にも見届けられず、誰にも弱音をはけず、誰にも助けを求めずに。
古の塔の屋上にたどり着いたセイスは高ぶる気持ちをおさえつつ、法衣から白色の大水晶が設置してある台座一つと、等身大の門を模るレリーフを4枚取り出す。
はじめにレリーフ4枚を各大精霊の社を納めた方角へ塔の壁に立てかける。
次に各門から直線で交差する中心点に大水晶の台座を設置し──
右手を時空の法衣に押し当てたまま魔力を注ぎ始める。
十分魔力が法衣に込められると当てた右手をそのままに、左腕を前へ突き出し左手を空に向けて広げる。
そしてセイスは黒い魔法陣を左手に構築し北方に設置したレリーフに向かい詠唱する──
「時空接合」
瞬間レリーフは塔の壁に沈み込み一体化し、そしてレリーフの門が開く。
セイスはそれを確認すると、残り3つのレリーフにも同様の魔法を施し門を開ける。
北の門からは地の加護が開放され
西の門からは水の加護が開放され
南の門からは炎の加護が開放され
東の門からは風の加護が開放された。
全ての門を開いたセイスは大水晶を中心に土・水・炎・風の魔法陣を丁寧に重ねて虹色の魔法陣を築く。そして静かに詠唱を始めた。
「偉大なる4大精霊の加護は開放された。地が支え、水が育み、炎が包み、風が運ぶ──
──4大精霊の
開放された4大精霊の加護が大水晶の中で渦を巻き、交じり、虹色の輝きを放つ。
虹の光は天へと放たれ世界を包む様に広がっていく。
どこまでも、どこまでも。
(これだ……神話やおとぎ話にしか無い様な光景、未知の
セイスは天を仰ぎ、目を閉ざし、喜びに満たされた──
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