スラムの街の交響曲 第二番「制裁と救済」 第一楽章
草原にダンテを置いてからいったん診療所へと戻っていたノクターンはまず火消しに準ずる人たちを探した。昔の日本国、江戸の時代では建物が密集していたため火を水で消すのではなく周りの密集した建物を破壊して延焼を防ぐ役目の団体がいた。スラム街も例に漏れず建物同士が密集しているため火消しの役割をしている人たちがいると踏んでいた。診療所の火はすべてを燃やしたようで既に燻ぶりの煙があがるだけだった。一足遅かったか、と思われたが遠くの方に数人服が濡れている人たちがいた。火消しをする際に水をかぶって炎の近くで作業するために濡れたものだろう。どうやらお目当ての団体を発見したようで話をしに駆け寄っていくノクターン。
「すまない、あんたたちはここの火消しをしていた人たちでいいか?」
「ああ、そうだが。あんたあの診療所の患者とかかい?」
「まぁそんなところだ」
「気の毒だなぁ、最近のここらじゃ珍しくないんだがまさか診療所をやっちまうとはやつらもそろそろどうにかしねぇとなぁ…」
「それなんだが、すこし協力してくれないか?」
「なにをだ?」
「やつらの根城はどんな形をしているんだ?」
「みりゃすぐわかるよ。この街で一番高い建物だ。最近までは街の中心にある展望塔やぐら一番高かったんだがあいつらが街に来てからは略奪繰り返してあんなもん建てよったわ」
「今からその建物をぶっ潰しにいってくる」
「は?」
「やつらの根城付近でまた火災が起きると思うからやつら意外の家が燃えないように騒ぎが起きだしたら派手にやってほしいんだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、あんたあいつらの身内を知ってるか?相当な手だれを複数人雇ってて街のもんは誰も近づけねぇんだ。俺もどうにかしねぇととはいったが無謀すぎないか?」
「要は見つからなきゃ手だれもなにもない。俺の心配はしなくて大丈夫だ、一人で乗り込むからあんたたちはこれから起こる『仕事』をしてほしいんだ」
「はぁ…」
「壊すのはやつらの根城の周囲だけでいい、ほかの家を巻き込んでしまってはまずいからな」
そういうとノクターンは煙も収まってきた診療所の残骸の中に使えるものがないか探しに入った。今の時刻はだいぶ暗くなった夕刻、街で必要なものを探すにも店のほうは既に閉まっているだろう。それならばぼろぼろではあったが自分の装備から使えるものが残ってないか探す方が良いだろう。
「私の装備は…」
燃えかすの中に見覚えのある装備が埋まっていたが追手から受けたダメージと今しがたあった火事のせいで使えたものではないことを瞬時に理解した。
「あった、が元々がたが来ていたからな。使えないか」
つまりは敵の根城をナイフ一本と炎の封呪符、この二つだけでどうにかするしかなさそうだ。確かに無謀と思えるかもしれない、だがノクターンの頭にはどうにかできる算段が沸いてきていた。それは彼の身体能力と経験もあっての内容で普通の人間ならばまず敵の根城に乗り込もうとすることも考えないだろう。
(しかしこのままいくには情報が少ないな、街の人にも不満が募っているだろうし密かに監視している人なんかもいるんじゃないだろうか。)
そう思うと夕刻の街へと再び繰り出していく。なるべく情報がほしいノクターンではあったが自分の情報が敵に漏れてはどうしようもない。スラムの街の建物の構造は汚くはあったが決して脆くはなさそうだ。身長が178cmにも関わらず体重が55kgしかない彼にとっては好都合でおもむろに屋根の上へとあがっていった。
(街の人には申し訳ないが上の道を使わせてもらおう。)
普段より高いところに上ったノクターンは次に敵の根城を探した。すぐにわかると火消しの頭から聞いていたので見当がついた。
(まずは展望やぐらのほうに行ってみよう。根城の様子を確認出来るかもしれん。)
そう思うとなるべく音を立てないように屋根の上を素早く走り出した。
やぐら付近に着いたが辺りは静かなものだ。夜中に出歩いているとやつらに目をつけられるからだろうか?とりあえずやぐらに昇ってみるとそこには一人だけ根城の方を望遠鏡らしきもので覗いていてこちらに気づかない少年がいた。
「そんなに気になるのか?」
「っ!?」
「慌てることはない、私はやつらの仲間じゃない」
「なんだ、よかった」
「すまんが私にもその望遠鏡を見させてくれないか」
「あ、あぁ、いいけどどうするんだい?」
思ったより遠くまで見渡せる望遠鏡だったようで根城の上部の構造が良く見てとれた。最上部の部屋の窓からは光が漏れていてリーダーらしき人物もチラッとだが確認できた。
(上の警備は手薄だな、思ったより侵入は楽そうだ。)
「すまんな、望遠鏡返すぞ」
「あぁ、良く見えるだろ?遠視補助の魔法がかかってるんだ!あいつらいつも街で悪さするんだ。みんな困ってるんだけど手が出せなくって」
「そうか、なにかやつらに関して知っていることはないか?」
「おいら、いつもここで見張ってるんだけどやっぱ夜になると見張りも緩くなるみたいだよ。あそこの頭は人使いも荒いみたいで部下からもあんまり良いようには思われてないみたい」
「そうか、ありがとう。これから面白いことが起こるから楽しみにしとくといいぞ」
「?」
そういって望遠鏡を返すと少年は再び望遠鏡を覗いてから「面白いことって?」と聞き返したがすでにそこにはノクターンの姿はなかった。
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