第5話 敵地へ

 UFOは動いている。だから出た先は少しずれてしまった。

 中ではなく、外に転送されてしまった。エクス達は吹き飛ばされそうになりながらUFOの屋根にしがみつく。


「早く中に入る場所を見つけないと」


 見たところ入り口らしき場所は見当たらない。丸みを帯びた機械的なUFOの屋根が広がっているだけだ。

 だが、探す必要はなかった。UFOの屋根に入り口が開いてヴィランがわらわらとやってきたからだ。


「入り口を用意してくれるとはありがてえ!」

「全部ぶっとばして中に入るわよ!」

「姉御についていきます」


 戦闘が始まる。

 慣れない場所での戦いだったが、相手は所詮ただのザコヴィランだ。

 軽く片付けて、ありがたく開いたままの入り口から中へと入らせてもらった。



 中は随分と静かだった。エクスの見たことのない機械が並んでいた。


「これがSFなのか」

「わたしもこうした物は見たことがありませんね。武器があればいいのですが」


 シェインは武器マニアだ。どうせ見るなら武器が見たいと目を光らせていた。タオが注意を促す。


「俺達の目的を忘れるなよ」

「カオステラーを倒さないとよく分からない物は増える一方よ」

「姉御、もしかして乗り物酔い?」

「してないわ。とにかく早く終わらせて帰るわよ」


 通路を歩いて、いくつかのシャッター式のドアをくぐる。


「これは自動ドアですね」

「自動ドア?」

「自動で開くドアです」

「なるほど」


 シェインは博識だ。エクスは自分も本を読もうかと思った。

 静かな廊下を歩いていく。


「敵の気配がありませんね」

「誘いこまれているのか、あるいは相手にされていないのか」

「どちらにしてもわたし達の行く場所は一つだけよ」


 調律の巫女としての能力を持つレイナは行く場所を感じ取っているようだ。それは同時に感じ取れるほどの近くに強大な敵がいるということでもある。

 いくつかのドアをくぐった先で彼女は立ち止まった。


「この先にカオステラーが?」

「ええ、準備はいい?」

「もちのろん」

「虎穴にいらずんばこじをえず」

「合点しょうち」


 ここまで来て退く選択肢があるはずもなかった。



 そこはたくさんのコンピューターやモニターの並んだ部屋だった。その中心でカオステラーがコンソールを操作していた。

 近づく足音を聞き留めて彼は声を掛けてきた。


「外の連中は片付いたのかい?」

「残念だな。片付いたのはヴィランどもの方だぜ!」

「お前がここのカオステラーか!」

「うーん? ここまで来るとは、僕の発掘する物に興味を持ってきたのかな?」


 眼鏡を掛けた学者風のモンスターが振り返って答えた。彼こそがここのカオステラーだ。

 エクス達はその存在を強く意識した。


「発掘?」


 壁のモニターに目を向ける。そこには外の景色が映し出されている。

 山のふもとを掘り起こし、UFOは何かを発掘しているようだった。それは鋼鉄の人形のように見えた。

 周囲の木々が随分と小さく見えるスケールの大きさだ。

 カオステラーは気前よく教えてくれた。自慢や発表が好きな性格のようだった。


「巨大ロボットを発掘しているんだ。UFOや戦車なんて僕にとってはどうでもいいんだ。僕の発掘したいのは巨大ロボットだけなんだ」

「そのために世界をSFに?」

「またわけの分からない物を増やそうって言うのね」

「だって、巨大ロボットには浪漫があるじゃないか。僕は物語に浪漫を与えたいんだよ。何もないただファンタジーなだけの世界なんてつまらないだろう?」

「それで世界を乱していたら意味がないでしょうに」

「あなたのはただの自分勝手な欲望です」

「なんて頭の固い奴らだ。浪漫を理解出来ないなんて」

「浪漫は理解出来る。だが、世界を巻き込んでいいものじゃない」

「カオステラーに話は通じない。やるぞ!」


 戦いが始まる。カオステラーはさすがに強敵だ。メガヴィランよりも。

 カオステラーは素早く操作盤に指を走らせた。


「僕のCOMPは悪魔を呼ぶよ。現れろ、メガヴィラン。奴らを打ち倒せ!」


 と言うかメガヴィランを召喚してきた。巨大な翼を持つ化け物が四人の前に立ちはだかる。

 きらめく爪、しっぽが右から左へと振りぬかれる。見上げるほどに大きな竜型の姿をしたそれはメガドラゴンだ。


「こんな奴まで呼ぶのかよ!」

「こんな場所で!」

「さすが世界を乱す災厄の根源!」

「でも、メガヴィランもまた倒してきた相手だ! 勝てない相手じゃない!」


 メガヴィランは強力な風を巻き起こしてくる。エクス達は耐えつつ反撃に出る。

 物語の主人公達の力を借りて攻撃する。HPが減ったら回復する。

 竜とはいえヒーローならば倒せる相手だ。物語の中で人々は様々なモンスターと相対してきた。それはここでも変わらない。

 エクス達はヒーローの力を振るう。剣で斬り、魔法を唱え、遠距離から射撃し、防御する。

 苦戦したが何とか敵を打ち倒した。その行為にカオステラーは興味を示したようだ。


「ほう、強いね。何が君達をそこまでさせるのかな」

「この世界を守るためだ!」

「世界は楽しむためにある。この僕を楽しませるための世界だ!」


 カオステラーがコンソールに指を走らせるとともに周囲からレーザー光線が迸る。四人は何とかそれを回避した。


「だったら、そこで暮らす人達はどうなる?」

「知ったこっちゃないね。他人を気にして、それで自分がつまらなかったら何の意味も無いじゃないか。巨大ロボットを発掘した暁には全ての世界を蹂躙してやる。皆がひれ伏すんだ! それが世界のあるべき姿だ!」

「許せない!」


 エクスは今までにたくさんの人達と出会ってきた。みんなそれぞれに生きていた。

 仲間がいたからこそ出来たこともある。世界は決して一人の欲望のために自由にしていいものではない。


「この世界に調和を! 奴を倒す!」

「ならば僕も本気を見せようじゃないか!」


 カオステラーの姿が変貌する。体が歪に変形し、鋼鉄の部品が全身からせり上がり、金属質のロボットの姿となった。


「その姿は!?」

「こんな物は浪漫じゃない。人は尊い。僕はそう思っているからね!」


 腕のドリルが唸りを上げて、エクスに振り下ろされる。エクスはそれを上に跳躍して回避した。


「そう思っているなら!」

「でも、それだと足りないんだよ。世界には巨大ロボットが必要なんだ! 人が正しい、僕の世界を意識するためにはね!」

 

 振り上げられる銃口。照準がエクスを捉える。その隙にシェインとタオは敵の足元を襲撃した。


「話になりません。早く倒しましょう」

「能書きなら誰の迷惑にもならないところで垂れてろってんだ」

「世界の歪みの根源よ。わたし達が正す!」

「くううううう!」


 レイナの魔法が敵に炸裂する。さすがのカオステラーもたじろぎを見せ始めていた。


「ちっくしょお! てめえらああああ!! 何を否定している!? 僕の物語だぞ!」


 バルカン砲が周囲の地面をなぎ払う。避け場のないその攻撃をタオはディフェンダーの能力で防御した。


「軽いんだよ! こんな物!」


 だが、カオステラーの攻撃だ。その攻撃は決して軽くはない。タオの態度はただの強がりだ。

 しかし、その態度にカオステラーは激昂した。


「何が気に入らないんだ! 巨大ロボットの何が悪いってんだ! みんな素直に僕の思い通りになってろよおおお!」

「本性を現したな」

「守るわよ、この世界」

「奴を倒す」

「僕達の冒険はこの世界と人々のために!」


 エクスは走る。剣を振る。旅で会ったヒーロー達の力を借りて。

 カオステラーは強かった。ヴィランやメガヴィランをも遥かに凌ぐ強敵だった。

 だが、四人の頑張りの前についに倒れる時が来た。


「もう少しで巨大ロボットが発掘出来たのに。こうなったら自爆だ。自爆もまた浪漫には違いない……!」


 カオステラーは最後の力で自爆装置を起動した。警報が鳴り、カウントダウンが開始された。


「このままでは三分後に爆発します!」

「どうすればいいんだ」

「これを何とかすれば何とかなるんじゃない?」


 レイナはカオステラーの操作していたコンソールを指さして言った。その意見には根拠が無いし、どう操作すればいいのか皆目見当も付かなかったが、他に打てる手は無さそうだった。

 とりあえず適当に叩いてみる。すると通信装置が起動した。相手はよく見知ったナーナの映像と声だ。


「あ、通信装置が繋がりましたー。そちらの様子はどうですか?」

「カオステラーは退治しました。でも、自爆装置が起動してしまって」

「それは大変ですね」

「僕達こういうのうとくて。どうすればいいですか?」

「では、転送装置をそちらに持っていきましょうか?」

「そんなこと出来るんですか?」

「はい、ちょうど今UFOを目視してますので」

「じゃあ、早くしてください! あと30秒で爆発します!」

「はいはーい。では、飛んでいきますね」


 直後、衝撃とともに何かが床をぶち抜いてやってきた。現れたのはエクス達のよく知っている、だが少し違ったナーナの姿だった。


「無茶して少し壊れちゃいました。でも、転送装置は無事ですからすぐに起動しますね」

「ナーナさん、その体って」

「ん?」


 UFOをぶち抜いた時に痛めたのだろう。ナーナの壊れた体からは機械の部品が覗いていた。

 ナーナは寂しそうに微笑んだ。


「ナーナもロストテクノロジーだから」

「人間じゃ無かったんですね」

「どおりで人間離れしてると思ったら」

「でも、彼女はカオステラーとは違う。俺達とともに戦った。仲間だ」

「うん」


 その意見にはみんな同感だった。

 悪いのは世界を乱す存在であってロストテクノロジーその物ではない。今回は何度もその技術に助けられてきた。

 ナーナも力づけられたようだった。彼女の顔に笑顔が戻った。レイナは訊ねる。


「怪我は大丈夫なの?」

「ナノマシンが治してくれるからだいじょぶー」

「だいじょぶーなら良かったわ」

「ナノマシン万能説……」


 シェインが何か呟いていた。それもきっと本の知識なのだろうとエクスは思った。

 ナーナはすぐに機械の設置を終えた。


「さあ、転送装置が起動出来たよ。早く飛びこんで。あと5秒しかないよ」

「あと5秒かよ!」

「急ぎましょう!」


 四人は慌ててナーナの起動した転送装置の中へと飛びこんでいった。



 UFOは落ちていく。山のふもとに激突して、そこで発掘しかけていた巨大ロボットを巻き込んで爆発霧散していった。

 四人はそれをモアイのいる山の頂上で見守った。


「あと少し遅かったらやばかったですね」

「ロストテクノロジーさまさまだな」

「わたしは武器が見たかったです」

「乱れた世界をそのままにはしておけない。戻すわよ」

「はい」


 レイナは調律の歌を歌う。世界が元に戻っていく。これでこの世界からもうSFが出てくることはないだろう。

 モアイとナーナもそれを見守っていた。


「見事な歌じゃな。これはアイドルの才能ありかもな」

「だから、あたしがそう言ったじゃないですかー」

「少し信じていなかったが、信じることが大事なのかもな」


 山を下りて村長に報告すると彼もまた喜んでくれた。

 カオステラーは倒され、UFOやヴィランが襲ってくることはもう無い。

 これからは村を訪れる旅人も増えるだろう。

 村長は戦車を平和と村おこしのために使ってくれると約束した。

 過ぎた力はバランスを崩し、世界を破滅へと導きもするが、節度を守って使えば世界のバランスは保たれる。

 心優しいナーナが人としてみんなに好かれていたように。

 四人はこの世界の人達に別れを告げて、次の世界に向かっていく。

 旅を続けていく。

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グリムノーツ きかいな想区 けろよん @keroyon

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