食堂
朝食は他愛もない話をたくさんした。が、なかなかに有意義な時間だったと思う。
『朧』のことも色々聞けたし。
最近は知名度も上がってきて、依頼も多く来るようになったそうだ。過去に私と仕事をしたときのように、祭りの依頼が多いらしいが、最近はテレビ出演などの仕事も舞い込んでくるようになったという。今は桜の綺麗な時期だから、散ってしまう前にライブをしておきたいとも言っていた。ということは、近いうちにプロデュースすることになるのかもしれない。
食事を終え、空になった皿を指定された場所へとさげる。枇々木くん、轟の双子、五津先輩は既に食べ終わっていたようで、食堂にいるのは羽柴先輩と私達だけのようだ。…まだ寝てる、羽柴先輩。
「…ちょっと、二色起こしてきますね」
「え、お知り合いなんですか」
「はい。一年生の途中までは、同じクラスでしたから。今でも仲良くしていますよ」
途中まで、というのは一年生の途中から羽柴先輩――『King』が特待生に選ばれ、特別舎にいったからだろう。
しかし、羽柴先輩と千座先輩か。
なんだか意外な組み合わせだ。
千座先輩が羽柴先輩の肩をつついた。羽柴先輩は一度起き上がり、また寝る。「起きなさい、二色」と千座先輩は肩を揺さぶるが、「寝る」という返事が返ってくるだけだ。それを数回繰り返す。結果は同じ。
やれやれ、というように千座先輩がかぶりを振った。そうして羽柴先輩を見つめると、耳元に顔を寄せる。
「起きんかい」
小さな声だったからちょっとしか聞こえなかったけど、口の動きからそういったように思う。
「おはよう」
「うおっ起きた」
東雲くんが驚いたように声を上げる。羽柴先輩が東雲くんのほうを見て、華奢な体に似合わずのっそりと立ち上がった。
「…千座先輩って関西の方なんですか?」
隣にいた杜先輩に聞いてみた。
「そうやで。俺と幼馴染や。何で知っとるん?」
そうなのか。
「さっき『起きんかい』って言ってた気がしたので」
「……右京が、『起きんかい』って?」
「…?はい」
何か変なことを言ったのだろうか。杜先輩は驚いたような戸惑ったような、不思議な顔で千座先輩の背中を見ている。
「羽柴くん言うたか…右京と仲ええんやな」
杜先輩は目を伏せると、そう切なそうに笑った。
どこか含みのある言い方だ。何か、千座先輩との間に確執でもあるのだろうか。そんな風にが見えないけど。
杜先輩は、やや長めの自分の金髪に目を落とした。上のほうの髪は黒い。ということは、金髪は染めたものなのだろう。
私は杜先輩から視線を外す。
少しの間、沈黙が漂った。
「教室行けば」
薄く儚い、だがしかしそこにある声。
羽柴先輩の声が沈黙を切り裂く。
「そうですね。そろそろ向かいましょうか…何を寝ようとしてるんです、二色」
「バレたか」
「逆に何でバレないと思ってるんですか」
「
「残念でしたね、伊折さんじゃなくて」
「ほんとだよ」
「調子に乗らないでください」
千座先輩が羽柴先輩の頭を軽くはたいた。それでもまだ眠気は抜けきらないらしい。欠伸を何度かしてだるそうに首を回している。『King』と仕事をしたことはないから練習の風景はわからないけど、ステージ上とはすごい違いだ。
こんな眠そうな人が、ステージ上ではあんなに輝いて見えるんだから、アイドルってすごいよな…。
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