オリエンテーション
イケメンといわれる君色学院教師陣のなかでも、特に人気の高い先生だ。
君色学院の教師はほとんどがこの学校の卒業生であり、過去に特待生だった人もちらほらいる。一般生からの憧れである、この烏丸先生もそう。かつての特待生だ。
「歌やダンス、パフォーマンスの指導の先生は何人かいらっしゃいますが、基礎的な部分は私が担当することになります。これから一年、よろしくおねがいしますね」
両手を両肘に添えて烏丸先生は微笑んだ。
さらさらの茶髪が頬を滑る。
ああ、これは人気出るわけだ。超かっこいいもん。
「今日はオリエンテーションのようなものなので授業はありません。もうわかっているかもしれませんが、特待生について少しだけお話をさせていただきますね。もっとも、先日配ったプリントの大筋をなぞるだけになってしまいますが」
そういうと烏丸先生は教卓に置いてあった資料を手にとった。
「これからの一年、あなたたち特待生はこの特別舎で授業を受け、特別舎の中にある寮で生活します。授業の時間は一般生より少し長く、内容は一般生よりハイレベルなものになっていて、よりアイドルやバンドとしての技能の向上に重点を置いたものです。故に部活に所属している方は、少し忙しくなってしまうかもしれません」
君色学院にも部活はある。特殊な学校とはいえ、そういったシステムはほかの学校と変わりない。が、部活というよりは大学のサークルに近い感じだ。掛け持ちは自由で、特に定まった活動日などはなく、やりたい生徒がやりたいときに部室に行き、自由に活動している。委員会とは違って、部活動にあまり力は入っていないのだ。
私は一応手芸部に所属している。顔を出すのは週一くらいだ。
「そして依頼される仕事の量は一般生とは段違いです。地方ライブからテレビ出演まで、幅広い依頼が大量に舞い込んできます。どの依頼を受けるかは基本的にお任せしますが、はじめのうちは私達教師や、プロデューサーである天波さんに頼るのがいいでしょうね」
烏丸先生が私を見る。その目線を追って、他の生徒も一斉に私を見た。
うわあやめて、めっちゃ緊張する。
24人もの――先生を含めると25人もの美形たちに見つめられるのはさすがにきつい。見るのは好きだけど。――ああ、別に変な意味じゃない。綺麗な芸術品を見るのと同じ感覚だ。
幸い皆すぐに先生のほうに向きなおった。また視線が集まったのを確認すると、先生は例の微笑みを浮かべる。
「細かいことは追々説明していこうと思います。今は先ほどお話したことだけ覚えていて下されば結構です。
さて、急ぎ足で申し訳ありませんが、今日決めておくべきことが一つだけあります」
先生は資料を教卓に置く。チョークをもって黒板に文字を書き始めた。
5月、6月、7月――そうして3月まで書き終わると、再びこちらに向き直った。
「君色学院には、月に一回、特待生が参加しなければならないイベントがあります。
その担当を決めなければいけません。内容などはイベントが近づいてから考えるので、いまは参加するイベントだけを決めてください。
1イベント1グループが基本ですが、どこかのユニットやバンドと合同ライブをしても構いません。
先に私のほうで各イベントの出演グループは決めていますが、変更は可能なのでもし出たいイベントがあったら言ってください」
そういうと先生は、さっき書いた月の下にユニット名を書き込んでいく。私はそれを目で追った。
しかし、さすがだ。
烏丸先生の説明には一切無駄がなく、要点だけをわかりやすく伝えている。
今書いているイベントの出演グループだって、各ユニットやバンドの特徴や個性をしっかり考慮して選ばれている。また、同じ系統のグループが同じ季節に入りすぎないよう調整もされている。
私もプロデュースするグループのことは事前に調べているから、各グループの特長はわかっているのだけれど、それでもここまで効果的かつ効率的な配置ができるだろうか。
本来こういうことを説明したり、決めるのはプロデューサーである私の仕事だ。今回は最初だから先生がしてくれているのだろうけど、これからはそうもいかない。
――しっかり学んでおかないといけないな。
一字一句漏らさず吸収してやる。
私は机の横にかけた鞄から、ノートとペンを取り出した。
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