ぜんまいの鳥唄
ぜんまいのとりうた。
ねじを巻かれて、機械の鳥は唄いだす。
硝子のひとみにブリキのからだ。
心臓はオルゴールの、機械でできた鳥の唄。
窓辺に置かれた鉄の鳥籠は赤く錆びていて。機械の鳥の唄を聞くのは、いつもぜんまいを回す老人だけ。
きりきりとねじが回る。機械の鳥に、命が廻る。
ブリキの
少年はねじを巻く。
澄み渡る青空を、唄いながら鳥は見ていた。
青年はねじを巻く。
雨の止まない夜を、唄いながら鳥は見ていた。
男はねじを巻く。
灰色の雲を、唄いながら鳥は見ていた。
老人はねじを巻く。
赤く燃える町並みを、唄いながら鳥は見ていた。
主はもう、ねじを巻けなくなってしまった。
それでも鳥は、オルゴールの心臓を動かした。
硝子のひとみに、月が映る。
ブリキの嘴が、何度も繰り返しうたった唄をつむぎだす。
老人はもう、起き上がれない。
それでも機械の鳥は唄った。
ねじはもう、巻いてもらえない。
それでも唄った。
老人は、機械の鳥の唄をききながら、瞳を閉じた。
機械の鳥は、老人が眠りについても唄い続けた。
きっと、朝になって唄が聞こえなくなっていたら、彼が悲しむ気がして。
きっと、主が悲しんだ時にこそ、鳥は唄えなくなる気がして。
老人の目は、さめなかった。
だから機械の鳥は安心した。
寝顔は安らかだったから。
機械でできた鳥は、唄をやめた。
もう、二度と唄うことはなかった。
短編童話集『栞の園』 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu
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