第2話

「起きろ」

「んー……あと五メートル……」

「よしわかった起きろ変態」

「ゴフウゥゥッっっっっ!!」


飛び起きた。

脇腹に激痛を感じて悶えながらも立ち上がる悠一。


「痛え……、起こし方がバイオレンス過ぎるだろ……」

「あと五メートルと言ったのはお前だ、変態。アタシはお望み通り五メートル蹴っ飛ばしてやっただけだ」


 あっけらかんと言い放つ人物は身長の高い女だった。

 顔立ちはとても整っていて、百人に聞けば百人が美人と認めるだろうその顔に、悠一は腹の痛みを忘れて見惚れる。


 「アカネに見惚れてるとこすまないが、南雲君。いきなりだが本題に入る。状況はわかるかい?」


 右から聞こえた声へと顔を向けると、茶髪の優しそうなイケメンが微笑を浮かべていてる。こいつは一体誰なんだとも思うが、言われたとおりに状況を考えることにする。

 あたりを見回すが、見慣れぬ部屋、振り返るとおそらく自分が寝ていたベッド。そばに立っている不機嫌そうな美人。よく見るとどこかで見たことがあるような……


 その瞬間、すべてを思い出した。

 女子トイレに間違えて入ったこと、出ようとしたときにこの女がいて、口を塞ごうとしたこと、そして腹に穴が開いたこと。

 

 「……ッ!そうだ!腹!穴!……な、ない……」


 腹に穴が開いたことを思い出した悠一は、服をめくってみるが傷跡一つ残っていない。腹の穴は夢でも見たのか、おそらく痛烈な腹パンが入って痛みで錯覚したとかだろうか。気絶していたようだし相当強烈な一撃だったのだろう。


 「死んでなかった……」


 鮮烈に記憶に焼き付いた死んで当然の光景が間違っていたことに安堵していた悠一へ、イケメンと美女から声がかかる。


 「どうやら思い出したようだね。その若さで《婦女暴行》を試みたことを」

 「罪の認識は終わったか?変態。相手がアタシだったのが運のツキってやつだ」


 冷汗がダラダラと流れ出る。

 こちらからすれば、間違えて女子トイレに入り、女性にバレて殴られた不幸な事故である。


 しかし、それはこちらの理屈だ。はたから見れば自分は、女子トイレで用を足し、次に入ってきた女性の口を塞ごうと襲い掛かった男性。


 つまり……


 「完全に性犯罪者じゃねえか俺……、死んでるよやっぱり、腹に穴開いてなくても社会的に死んだよ俺……」


 しかし部屋の様子から見ても、二人の服装から見ても、おそらくここは警察ではない。どうにか弁明して、間違えて女子トイレに入ってしまったと理解してもらえれば警察沙汰にはしないでいてくれる可能性はある。

 悠一は、無言でこちらを見つめる二人に向かって正座をし、手を地面につけ、額を床に着ける。そう、土下座である。

 すうっと息を吸い込むと、大きく声を張り上げる。


 「すいませんでしたァ!信じられないとは思いますが、女性を襲おうとかそういう気持ちは微塵もなかったんです!腹が痛くて超駆け込みでトイレに入ったら間違えてたんです!すいません!」


 「ああ、許そう」


 「そうですよね!簡単に許してもらえないとは思っていますが、信用されるならば何でもしますので!どうか警察沙汰にはしないでもらえると助かります!俺、妹と二人暮らしなんで俺が牢屋に入るわけには……?え?許そう?え?」


 謝罪の言葉を述べる悠一は、先ほど聞こえたイケメンの声を思い出して顔を上げると、イケメンと目が合う。

 先ほどより優しげな微笑みを浮かべたイケメンは、そうだよと頷いてから口を開く。


 「許すと言ったんだ。婦女暴行っていうのは冗談だよ。間違えて女性用のほうに入ったのも、監視カメラと君の携帯に入っていた女の子からのメッセージで予想はできていた」


 「た、助かった……」


 悠一が安堵して土下座を解除すると、さきほどアカネと呼ばれていた美人が口を開く。


 「まあ、一概に助かったとも言えないんだけどな。これ、お前の《腹に空いた穴》の治療費な」

 「……え?」


 いろいろと突っ込みたい箇所はあったが、悠一は美女に渡された紙を見ると、請求書と書いてあり、請求金額のところにはゼロがいくつも並んでいる。

 いち、じゅう、ひゃく……3億。


 ……。


 いち、じゅう、ひゃく……3億。


 「……え?」


 その後何度数えても3億という請求金額に間違いはなく、悠一は目の前が真っ白になった。





 


 












 


 









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ReviveЯ  桐生凛子 @rinko_kiryu

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