ReviveЯ 

桐生凛子

第一章

第1話 腹痛

 彼、南雲悠一ナグモユウイチが間違いに気が付いたのは洋式大便器の上でだった。幼馴染とショッピングモールに来ていたのだが、急に腹痛が襲ってきたため、トイレに駆け込んで事をなした後である。


 「最近彼氏とはどうなの?」

 「んー?なんか連絡とる回数とか減ってきてさー、冷めてきたっぽいかなー?ユカはー?」

 「マジ?てかマイって冷めるの毎回早いよねー、前の彼だって……」


 よくある恋愛話を耳にして、悠一はズボンを上げる格好のままで硬直した。今の声は間違いなく女性のものだ。


 (さて……)


 止まっていた手を動かし、ズボンを上げる。ゆっくりとチャックを上げ、ベルトを締め、便器の洗浄レバーを上げる。

 ゴシャ―!と音を立てて流れるトイレの水。普通ならこのまま個室を出て、手を洗い、またショッピングに戻る。


 普通なら。


 しかし悠一はトイレ上部から流れる水で手を洗い、持っていたハンカチで手を拭いた後、便座のふたをきちんと閉め、そこに座りながらゆっくりと頭を抱える。

 (ここ……女子トイレか!?)

 冷汗が滝のように溢れ出てくる。

 そういえば、急いでいたために男子トイレかどうか確認なんてしていなかったし、いざ記憶をさかのぼると男子トイレ特有の縦長の小便器がなかった気がする。これまでの人生でも人並みくらいには失敗してきたが、この失敗は初めてだった。


 (畜生!俺史上ベストファイブには入るミスだぞこれ……。そうだ!アイツを呼べば……)


 ショッピングを続けている幼馴染の助けを借りようと携帯電話を取り出すと、充電が切れていた。

 絶望に打ちひしがれる悠一。

 ため息を吐いた後、耳を澄ませると、静かなことにかが付いた。話し声はもちろん、足音や用を足している音などは聞こえない。

 さっきの声の主も出ていったようだし、今なら誰にもバレることなく脱出できるかもしれない。


 (ええい!神よ!)


 悠一はそーっと、そーっと個室のカギを開ける。


 しかしそれがいけなかった。


 音を立てずに鍵を開けた瞬間、向こうがわからドアが


 向こう側にいた女性とバッチリ視線がぶつかる。


 悲鳴なぞ上げられたら一巻の終わりだと思った悠一はすぐさま行動に出る。女性の口を手で塞ごうと前に出た瞬間、彼女は右腕をまっすぐに突き出しこう口にした。


 「!」


 二秒ほどだろうか、腹部に痛みを感じた悠一が下を向くとぽっかりと腹の真ん中に


 「え、マジ?」


 悠一はそう呟くと、意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る