三章
あの後から私達は放課後一緒に帰っていた。
彼は私の話を色々と聞いてくれた。
共感もしてくれた。
私はそれがとても嬉しかった。
こんなにも優しくしてもらったのは初めてだった。
だがそのせいで松永は苛められた。
「本当にあいつは馬鹿だよな」
放課後、教室の中から松永の声が聞こえる。
誰かと話しているのだろうか。
私は気になり教室を覗く。
「本当だよな。騙されているとも知らずに」
話し相手はあの日、松永を苛めていた男達だった。
ドン
と、後ろから押され教室の中に入ってしまう。
「こいつ覗いてやがったぜ」
私を押した男が言う。
「松永どうするよ。見られちまったが」
「まあ、予定より早いけど」
「苛めようか」
私は固まった。何で松永にそんな事を言われるのか。
「こいつ固まってやがるぜ」
「面白いな。石像みてー」
そんな台詞はどうでも良かった。そんな事は気にならなかった。
松永が携帯のシャッターを切る。
「うん、良い写真が撮れた」
「何で……」
「ん?」
「何でこんな事」
「何が?」
「何で、好きって言ってくれたじゃない!」
自分でも驚くぐらい大きな声が出た。
「ああ、あれね」
松永はそんな私を嘲笑うかのように言う。
「嘘だよ」
驚くほど冷たかった。
私の顔が変わったのだろうか、松永がシャッターを切る。
「中々良い写真が撮れたよ」
今撮ったばかりの写真を見せて来る。
そこには全てに絶望したかのような顔をした自分が写っていた。
「嘘って……」
「何? 本当に自分が好きだと言われたと思ったの?」
嫌だ、聞きたくない。
「僕は君の事がね」
耳を塞ぐ。
「大嫌いだ」
涙が出た。
シャッター音。
松永がまた写真を撮った。
だがもうそんな事はどうでも良かった。
「松永お前本当に悪い奴だな」
「まあこれも依頼だし」
「だからって自分の事を苛めろなんてそこまですんのかよ」
「まあ、僕が本当に好きな人の依頼だし」
そんな話も耳に入ってこない。
「さて、必要な写真も送ったしそいつはもう好きにして良いよ」
松永が帰ろうとする。
「お前は殴ったりしなくて良いのかよ」
「別に良いよ。飽きたし」
松永が寄って来る。
「じゃあね彼岸さん。大好きだったよ」
優しかった頃の松永の顔で言ってくる。
「お前本当に酷い奴だな」
「最後くらいは夢を持たせてあげないとね」
目の前が真っ暗になる。
次に目を覚ますと私の周りには男達が倒れていた。
私は松永の首を絞めていた。
もう何も感じなかった。
ふと、依頼人の事が気になり松永の携帯を取り上げ送信済みメールを見る。
その送信先はよく知っていた。
「あら彼岸、そんな所に立ってどうしたの?」
長女が話しかける。場所は長男の部屋。
「……彼岸。貴方がそれをやったの?」
私の前には長男が倒れている。
「まあそいつはどうでも良いけどね。どうしてそんな事をしたの?」
振り返ると長女は優しい顔をしていた。
「彼岸、その包丁を渡しなさい」
私は長女に近づく。
「そう。そのまま頂戴」
長女の前に手を伸ばし、
刺す。
「え?」
長女はそのまま気絶してしまった。余程ショックだったのだろう。
私は長女の鞄を漁り携帯を取り出す。
メールを確認する。
松永からのメールが有った。
携帯のデータの中には私の写真が沢山有った。松永が撮った物も。
私は携帯を捨てる。
家には油を撒いている。
長男は騒がれないように殺してある。
長女は気絶したまま。しばらくは起きなさそうだ。
後は火を付けるだけだ。
躊躇いは無かった。
火が回る。
火はどんどん広がって行く。
長女や長男にも燃え移る。
私も燃えて行く。
周りには火と瓦礫しか見えない。
死体は燃えたらしい。
熱さは感じない。
今まで蹴られたりしていたからか、痛覚はマヒしていたのか。
今はそれが有りがたい。
酸素が奪われていき呼吸が苦しくなる。
肺が燃えているかのようだ。
私は倒れた。
私は思う。
ようやくしねる
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