二章
「お前のその目が気に食わないんだよ!」
殴られる
「たっく」
あの女子三人に言い寄られてから私は虐められていた。
「金も持って無いとかほんと役にたたないな」
「まあいいや」
そう言い捨て男子達は帰って行った。
あー、どうしよう。大分殴られたから体を動かすのが辛い。
後ろの方から誰かが近づいてくる音がする。
回復するまで誰にも会いたくないのに何でくるかなー。
誰かがさらに近づいてくる。そして、
「大丈夫か?」
話しかけてきた。
話しかけて来るのは予想していたが、まさか心配の言葉だとは予想外だった。
「おーい? そこの寝転がっているあんた、大丈夫か?」
声を聞く限りは男のようだ。
「貴方はこの光景を大丈夫だとでも思うんですか?」
「まあ、そうだよな。俺だったら学校辞めちゃうもん」
普通はそうですよね。
「どうする?」
「何がですか」
「保健室行く?」
「何でですか?」
「え? だって消毒とかしなきゃ」
「別に良いですよ。どうせ明日もやられるんだし」
「でも……」
私は幾分回復してきたので立ち上がる。
「私に関わると酷い目に遭いますよ」
そう言い残し私は立ち去った。
まさか普通に話しかけて来る人がまだ居たなんて、ああいう人は面倒なんですよね。
そんな事を考えている内に家に付く。
ドアノブに鍵を刺し回す。
ドアを開けると目の前に長男がいた。
「ようやく帰って来たか」
そう言いながら長男が近づいて来る。
この人が自分の部屋から出て来るなんて珍しいな、なんて考えていると胸倉を掴まれる。
「お前、こんな時間まで何やってんだよ」
台詞だけ見れば良い人に見えるんだけどなー。
「ちょっと学校で色々有りまして」
「お前、学校と俺どっちが大事なんだよ」
それは勿論学校ですけど……。
未だに何に対して怒っているのか解らない。
「お前が帰って来ないと晩飯が無いだろうが!」
……。
「は?」
「あ? 何だよ、こっちは腹減って死にそうなんだよ」
しまった。声に出てしまった。
それにしても、まさかお腹が空いていただけだったとは。
「今から作りますから少々お待ちください」
「ああ。さっさと作れよ」
そう言った長男は自室へと帰って行く。
「あ」
と、言い長男は足を止め振り返る。
「お前、俺を苦しめたから晩飯抜きな。もし食べたら解るよな?」
「はい」
その返事を聞くと嬉しそうに自室へと帰って行く。
本当に子供がそのまま大きくなったみたいだ。
私は少し呆れながら自室に荷物を置き、晩飯を作り始めた。
長男の食べた後、皿を片付けながら思う。
やる事が無い……。
いつもだったら自分の分を食べているのに禁止されているためやる事が無い。
先にお風呂に入ってしまうか。
だけど、いつもの時間に入らないと感覚が狂いそうだ。御飯は抜いている訳だが。
「ただいまー」
長女が帰って来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うん」
長女が流し台を見て話しかけてくる。
「貴方、晩御飯は?」
「実は、」
と、さっき長男に言われた事を説明する。
「ふーん。私の晩御飯はある?」
そう言われたので私は長女の分を取り出す。
「じゃあ、それを持って部屋に来て」
長女が歩き出したので私は付いて行く。
「御飯はそこら辺に置いておいて」
着替えながら私に指示を出してくる。
着替え終わった長女は
「頂きます」
晩御飯に手を出すが、
「あの、何をしているんですか?」
「ん? ああ、貴方の分をよそってるの」
そう言いながらお米の上に乗せて置いた蓋にお米等をよそっていく。
「でも私……」
「別に黙っていればあいつだって気が付かないでしょう」
「でも……」
「良いから良いから。私だって夜に倒られても困るし」
「そ、それでは……」
御飯に手を出そうとした時、
「ちょっと待って」
そう言いながら私の後ろに長女が寄って来る。
「普通に食べても面白くないから、これ付けて食べてね」
私の後ろ手に縄で縛って来る。足も縄で縛られる。
「はい。これで頑張ってねー」
私が食べるのを待っているのか自分の分には手を出そうとしない。
「……あのそんなに見られても困るんですが」
「私の事は気にしないで良いから、食べて食べて」
困った。このタイプの人は言っても聞かない人だ。
私は意を決し、食べる為に芋虫の様な形になる。この間、長女はまるで子供の様に目を輝かしている。
恐らく相手の求めていたのとは違うであろうが、私は普通に食べる。その姿を見た長女は疑問を振って来る。
「ねえねえ。どうしてそんなにも普通に食べられるの? 普通だったらもっと口元とか汚しながら無様に食べるんじゃないの?」
まあ、予想していた事を聞かれる。
「昔、同じ様な事を散々やらされてきたので……」
それを聞いた長女は子供の様に不貞腐れている。
「あ!」
と、何かを思いついたのかまた私の後ろに回って来る。
「あの……」
私が言いかけた時、目の前が真っ暗になる。どうやら目隠しをされたようだ。
「今度はこれで食べてみてね」
とは言われても
「目隠しされたままだと流石に」
「大丈夫。私が目の前まで持っていってあげるから」
目を塞がれているから目の前に御飯があるか分からない。
「ほら、口開けて。あーん」
さすがにここまで言われたらやるしかない。
私は口を開ける。
数秒この形で止まるが口の中に食べ物が入ってくる感覚が無い。代わりにシャッター音が聞こえる。
「あの……」
「ん? どうしたの?」
「御飯は……」
「そんなに食べたい?」
「いえ、別に」
「むー。そこは冗談でも食べたいって言う所でしょ」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。もう良いわよ。良い写真も撮れたし」
目の前が明るくなり、手足が自由になる。
「さっさと食べちゃいましょうか」
「はい」
「お粗末様でした」
「それでは片付けてきます」
そう言い残し私は部屋から出て食器を水に漬け、洗おうと思った時、
玄関のドアを開け家の人が帰って来た。
「……」
無言で睨んでくる。私は急いで押し入れに入る。
いつもと違う時間に帰って来たせいですっかり忘れていた。気が付けば家の人が帰ってくる時間になっていた。
なぜ時間を気にしなかったのか。そんな後悔をしていると、
バッ
と、音がし押し入れの扉が開けられる。家の人に何か言われると思ったが、
「驚いた―?」
そこには長女が居た。
「えい」
そして写真を撮られた。
「あ、あの」
長女は今撮ったばかりの写真を見せてくる。
「珍しいわね。貴方が泣くなんて」
写真には目元に涙を浮かばせる自分の姿が写っていた。
「あ、あれ・・・・・・」
「泣いた顔も良いわねー」
「そんなことを言われても」
「そう言えば私が苛めている時は何で泣かないの?」
「慣れてしまったので」
「ふーん。まあ、今夜もよろしくねー」
そう言って長女は押入れを閉めた。
いったい何が怖かったのだろう。泣いた事なんて、いつ以来だろう。
今日も身体の節々が痛い。夕方にやられた分もあるのだろう。
夕方と言えば、あの男は何故話し掛けて来たのだろう。
まあ、どちらでも良いや。私に関わり過ぎると面倒な事になるって分かっていたとして話しかけたなら相当な馬鹿なのだろう。
どちらにせよ、私には関係の無い事だ。
朝になりいつも通りの行動をする。
「やっほー」
学校に付いてから日課の読書をしていると、昨日の夕方に話しかけて来た男子が来た。
「何故ここに」
「何でってここ僕のクラスだし」
同じクラスだったのか
「にしても、お前より早く来ようと思ったのに」
「嫌味ですか」
「そんなに怒るなよ」
「私は忠告しましたよ」
「大丈夫、意外と何とかなるって。ところで何読んでるの?」
「何でも良いでしょ」
そんな感じで、他の生徒が来るまで話すことになった。
夕方、今日もいつも通り苛められ倒れていた。
「大丈夫かい?」
「大丈夫に見える?」
「いや」
「何で私に付き纏うの?」
「何となく」
「どうせ貴方も皆と同じなんでしょ」
「そうかもね」
「だったら苛めるでも何でもしなさいよ」
「僕はそんな事はしないよ」
「じゃあ何が目的?」
その問いに対し、彼は考える素振りを見せる。
「……何となく?」
「何で疑問形なのよ」
「まあ良いじゃん。僕達は友達なんだから」
「……いつ友達になったのよ」
「まあ気にするな」
「もう良い」
私は立ち上がり帰路に着く。
「また明日なー」
明日が来るのかなんて分からないのに。
「今日良い事でもあった?」
長女が帰って来るなり私に言ってきた。
「何でですか」
「何か良い顔してるから」
「気のせいですよ」
「いや、いつもと何かが違うもん」
「そんな事は無いと思いますが」
「まあ良いや。着替えて来るから御飯よろしく」
「はい」
最近、私の中で何かが変わって来ているのか?
それから毎日、あの男は毎日他に人が居ない時は話しかけて来るようになった。
「本当に何なんですか」
「まあ良いじゃないか。僕達の仲じゃないか」
「……」
「お、否定してくれなくなったね」
「もう放っておいてください」
「良いじゃん別に。減るもんじゃないし」
「私のは減るんです」
全くこの人は何でこんなにも寄って来るのだろう。
こんな日常に慣れてきている自分が怖い。
「最近面白く無い」
夜、いつも通り私を苛めていた長女はそう言った。
「何がですか」
私は長女の前で倒れながら言う。
「最近貴方の目が変わった気がして」
「そうですか?」
「うん。目に光が宿ってる? って言うのかな?」
「私にはよく分かりません」
「まあ今日はもう良いや。戻って良いよ」
「はい」
「彼岸さんはその痣の事、どう思ってるの?」
「別にどうも」
「ふーん」
最近ではこの男と話すのが日課になってしまっている。
そのせいかこの頃は本を読んでいない。
「それにしても最近明るくなったね」
「冬が過ぎましたからね」
「そうじゃなくて、彼岸さんの事」
「気のせいじゃないですか」
「いや、絶対に明るくなったって」
自分の事は良く分からない。他人の事も分からないけど。
「あれあれー。二人して何話してるのー?」
と、いつか私を苛めて来た男子達が入って来た。
「何々、お前等仲良くなってんの?」
まずい。これは面倒になるパターンだ。
「松永お前そんな奴と仲良くやってんの?」
あの人の名前、松永と言うのか。知らなかった。
「僕は別に……」
松永はしどろもどろになっている。
「ふーん。まあ良いや。おい彼岸ちょっと今イライラしてるから殴らせろ」
男子達のリーダーみたいな人が言ってくる。
私は無言で立ち上がり、男子達の方に向かう。
「逃げないでちゃんと来るなんて偉いな」
無言で男子達の方を見る。
「だからその目がイラつくんだよ!」
殴られる。
その反動で私は倒れる。
「彼岸さん!」
松永が駆け寄って来る。
「松永、そいつを助ける気か?」
「……」
「まあ、関わらない方が良いよな」
男子が足を引く。
蹴られるな、と思い目を瞑る。
ガッ
と、音がするが自分に痛みは無い。
目を開けると松永が間に入って来ていた。
「松永、何やってんだよ」
「……」
「だんまりかよ」
それから、松永はずっと私の事を庇ってくれた。
「あーあ。もう他の奴らも来ちゃったか」
そう言い男子達は自分達の席に戻る。
「ちょっと保健室行ってくるね」
言い残して松永は行ってしまった。
私は放課後、いつも通り苛められ帰ろうと思ったが結局帰って来なかった松永が気になり保健室に向かう事にした。
保健室には先生は居なく松永が帰ろうとしている所だった。
「あれ、彼岸さんどうしたの?」
松永は不思議そうな顔をしている。
「忠告しに来た」
「忠告?」
「そう。私はちゃんと言ったでしょ、私に関わると良い事ないって」
「そうだけど」
「分かったらもう私に関わらないで」
それだけ言い立ち去ろうとするが、
「嫌だよ」
松永が言う。
「何でよ」
「僕は君の事が好きだから」
「は?」
「だから、僕は君の事が好きなんだ」
振り向くと松永が頬を紅く染めながら言っていた。
初めてだ、そんな事言われたのは。
「あ、あれ」
不思議と涙が出ていた。
そんな私を見て松永は私の事を優しく抱きしめてくれた。
それを境に私は泣き崩れた。
「さっきの事は誰にも言わないでよ」
「分かったよ」
あの後私達は帰路に付いていた。
手を握りながら。
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