止まっていた時間 end

(おまえ・・・て・れ)


まてよ、いったいなぜあいつは笑っていたんだ。

なんであいつはおれをかばった・・・。


「そんなの決まってんだろうが!」


俺を守りたかったから・・・。


(おまえは生きてくれ)


最後の最後に繰り返されていたかすれ声がはっきりと頭の中で響いた。


そうか・・・そうだな、俺が守りたかった奴の最後の一言くらい守れなくて何ができるんだよな。


俺はうっすらと笑みを作ると思考を全開にさせた。


俺の体はもうぼろぼろだ、それでも、俺の体はまだ動く、俺の手はまだ剣に届く。

それならば・・・・


「最後までぶつかってやろうじゃないか!」


俺は残された力を使って空中を浮遊する剣に手を伸ばした。

それと同時に魂法を発動させる。

そして、地面を揺らして着地した。

気が付けば俺の遥か頭上を一本の線が通っていく。

それはハバネロの皮膚まで到達すると見事な光を周囲にばらまいて爆発した。


どうやらフィルが弓での攻撃に切り替えたらしい。


「ブレッドォ。大丈夫かァ!今すぐそっちに向かうから安心しろォ」


後ろを見てみれば大きな腹を揺らしてフィルがこちらに近づいてくるのがわかる。

その横にはパルムもいた。


「ブレッド、これ」


遥か遠くをはしるパルムの手から何やら青色の雷が放出させられた。

それは猛烈な速度で俺に突っ込んでくる。


「わかった!」


そう一言さけぶと右手の剣に魂法を発動させて雷を待った。


(ズドン!)


盛大な音を上げて雷は俺に激突する。

ホープせーバーを見てみればいつもよりもはるかに明るく、遥かに大きな波を出して発行しいた。


「いこ、ブレッド」


そういって真横にやってきたイブ。

俺は


「あぁ、そろそろ決着をつけなくちゃな」


と格好つけてつぶやいた。

そして、再び空中へと飛び上がる。

一度で相手の首元まで飛んできた俺は目の前に現れた胴体と首のつなぎ目目指して一撃を振り下ろす。

たった、一撃、それなのにも関わらず俺の聖剣から出された斬撃はハバネロの体を貫通する。

そして発生する黒煙を無視しさらに5回連続で同じ場所に剣を叩き落とした。

俺はさらにハバネロのうろこに足をかけるともう一度上空へと飛び上がる。

気が付けば俺のいた首元には無数とさえいえるであろうクリスタルや光線、さらには弓矢が飛んできていた。生き残った盾使いと魂法使いが一斉攻撃を始めたらしい。

浮かび上がる笑みをますます強くした俺はハバネイロドラゴンの頭上まですっ飛んでくるとブレスを吐こうとしている奴の顔面に剣を突き立てた。

頭をおおう無数のうろこの一つが砕け散りハバネロの皮膚があらわになる。

多少後ろに飛びのくと奴の鼻めがけて上段の一撃をかました。

そこから生まれた斬撃はハバネイロドラゴンのからだを見事に貫通し徐々に頭から引き裂いていく。

体に沿って落とした剣は音速さえこえてソニックブームを発動させながら奴の体をかちわった。

上段を打ち終わった俺は膨大な爆発を起こしながら地面に着地する。

パッと視界が明るくなった。

顔を上げてみれば正中線に沿って二つに切り裂かれたハバネイロドラゴンの体が今、一つの巨大な黒煙へと変わっていっている。


「やった・・・・」


漏れた言葉のあと、背後から耳をつんざく感性が聞こえてきた。


「ブレッド!やった、やったよ!」


俺はふらふらする頭を押さえ飛んできたイブのハイタッチに答えるべくハイタッチをぶつけた。

それを最後に俺の体は地面に突っ伏し目の前は真っ白く、視界はゼロにかわる。

だんだんと聞こえていた歓声も小さくなっていき、冷たい地面の感覚もなくなっていく。

そのかわり、思考ばかりが再び動き出した。

どうやら、聖剣でうつ必殺技は予想よりもはるかに強力だったらしい。

そうして、今、おそらく俺は時間を飛ばしているのだろう。


と、そのとき、俺の思考の中に一人の声が聞こえてきた。


「ブレッド、私、全部思い出したよ。これから私はあの黒煙に包まれたひに戻る。あぁ、やっと動き出すね。私たちの時間が」


楽しそうに話すイブに俺も声を出す。


「そうだな。これからはいっぱい遊んで、いっぱい勉強して、お前のことを俺が一生まもってやる。だから・・・・いつか、俺と一緒に結婚してくれないか」


俺は思ったことを頑張って伝えたつもりだ。

こんな思考の中だけでの会話でも自然と心臓がバクバク言っているのがわかってしまう。


「・・・うん。もちろん。私も同じことを思っていたの。だから、これからは一緒に幸せに過ごそうね。たぶん私がタイムスリップしてからしばらくたった後君はハバネロにやられたんだよね」

「あぁ、5か月間だ。その間、本当の俺を待っていてくれるか?」


一瞬のためも作らずイブからの声は俺の脳内に響いた。


「まってるよ」


今、ハバネロが死んだことによって俺たちの止まっていた時間が再び動き出そうとしている。


そうして今、新たな世界が始まろうとしていた。

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