待ち合わせの果てに 10

「痛い」とてもそんな一言では表せないほどの激痛が走る。

右腕を貫いたダガー。胸元をえぐったサーベル。右足をなかほどまで切り裂いた大鎌。抜けていく力と遠ざかっていく意識が今俺が味わえた痛み以外の感覚だった。


俺は守らなければいけない。今死んではいけないんだ。そんなことに後押しされ俺は右手の折れた剣を振るう。一撃が信じられないほどに重かった。数人は吹き飛ばしたが俺の腕がわめいている。

そうだ、いったいなんかい同じ失敗を繰り返すつもりなんだ俺は、また何かを失うのか?また、奴らに奪われるのか?また・・・・・あんな思いをしたいのか?いや、そんなことあってはいけないんだ。


「おりゃァァ!」


絶叫とともに振るった剣はあまりに弱弱しかったかもしれない。それでも、俺の剣は奴らを吹き飛ばした。再び背中を激痛が襲う。おそらく切り裂かれたのだろう。俺は背後に立つものを折れた剣で殴りつける。そして一気に後方へと吹き飛ばした。


今は死んではいけない。そんなことからだではわかっている。しかし、わかっているからといって状態がよくなるわけではない。どんどん薄くなっていく視界は今や距離感を失い色を失い相手が人間であることしかわからなくなっている。だんだんと抜けていく力を俺は全力で剣にこめ、目の前に接近した数人を殴りつけた。


「ウォァ!」


短い咆哮に合わせ俺は剣を振るった。それをあっさりと交わした殺人集団のうちの一人が

俺の腹にパルチザンをおしさしてきた。いやな感覚が全身を震えだたせる。それでも俺は剣を握りなおした。


「何度だってお前らを吹き飛ばしてやるよ」


血にまみれた俺の言葉に珍しく混乱したらしい殺人集団を俺は渾身の力を込めて突き飛ばす。パルチザンが抜け、大量の血が噴き出したが今の俺には気にするほどの問題でもない。

今はただ、意識をつなぎとめて剣を振るっていればそれでいい・・・・。そんなことを考えたのち、俺の頭上にはあきれるほど巨大な剣が振り上げられていた。残された意識を削って何とか剣を守ろうと構えなおす。しかし、

その大剣が俺の元まで振り下ろされることはなかった。気が付けば目の前に移るもう一つの人影。両手に木剣を持ち玉虫色に輝くセミロングをふわりと揺らすイブだ。

「言ったでしょ、ブレッドがピンチになったときは絶対に行くってね」


大剣を抑えながら笑顔を見せるイブ。それを左右から襲うのは手入れされていないサーベル。しかし、「ズドン!」すさまじい爆風をまきちらしなから吹き飛んだ二人・・・いや、周りにいた奴ら。上を見てみれば崖の上に真っ赤な鎧の男、フィルがたっていた。


「ブレッド。今、回復するから安心してね」


心が癒されるパルムの声。そしてだんだんと体が緑色の光を尾びていった。気が付けば全身の穴はふさがり吹き出ていた血までもが戻っていっている。


「ほら、これのみな」


イブがそういいながら手渡してきたものは緑色の薬草ジュース。


「ありがとな」


一言いい俺はそのジュースを飲みほす。味はいまいちの薬草なのだが今ばかりは幸せの味に感じられた。


「おい、ブレッドォ!この中には必ずリーダーがいる。そいつは一番後ろにいる赤フードだ今すぐ言って来い。そして、セフのかたきをとってくれェ!」


搾りださすように出したのだろうその声は俺の心まで貫いた。


「おう!」


一言答えると俺はクラウチングスタートに入る。


「ブレッドこれ!」


パルムから投げられたのは新品の木剣。俺はそれをクラウチングスタートの状態で受け取ると全神経を足に集中させ地面を踏みつけた。


再び体が動き出す。稲妻のごとく速度で進んだ俺は眼前にいる敵を数々と投げ払いただひたすらに走る。そうだ、後ろは気にするな。


あいつらがいる。みんながなんとかしてくれる。強い信頼からうまれる自信を信じ、さらに眼前の敵を投げ払う。俺はずっとみんなに助けられてきたんだ。だからこそ一人じゃ何もできなかった。でも、今は4人だ。俺が信じた4人が集まれば怖いものなんてない!

俺は空高く飛び上がった。なぜなら視界に真っ赤なフードをかぶった鎌使いが目に入ったからだ。一切動こうとしないそいつは俺の木剣が頭上にあたり数メートル先に突き飛ばされた。と、そのとき、俺の背中に違和感が走った。見てみれば針が一本刺さっているではないか。しかし、いったい誰が?。リーダーの奴ならもう離れた場所に・・・・


「あれ?」


いない。男の姿がどうみても見当たらないのだ


「何を探しているんダ?」


ふと真横から声がする。俺は慌てて剣を構え予想できた一撃を何とか耐えた。そして、木剣を放り捨てホープセーバーを引き抜く。


「ウォァ!」


振るった剣は男のフードをかすった。次の瞬間その姿が明らかになる。それはとても人の物とは言っていいものではなかった。光を吸い込んでいくかおはまるで小さなブラックホールのようで目はただの光へと変化していた。俺はこの姿を知っている。レッグの姿と全く同じではないか。唐突に右手側から鎌が振り下ろされた。俺は慌ててホープセーバーを持っていき受け止める。全身に響いた振動が奴の強さを物語っていた。

「どうやら、俺の姿にだいぶ翻弄しているみたいだナ」


男は表情など存在しない顔で重低音を響かせた。いまだに肩の位置ですバぜりあいが続いている。


「あぁ、そうだよ。お前らは一体何なんだ」


重すぎる一撃に耐えながら、喉の奥から声を絞り出す。男は一瞬二ヤっと気持ちの悪い笑みを浮かべると鎌に一層の力をのせ軽々と俺を吹き飛ばした。全身を浮遊感がおそい無様に地面に転がり落ちる。何とか体制を整えて立ち上がるがそのとき・・・・動かない!体が動かないのだ。正確に言えば動いてはいるのだが力を入れるたびに四足が小刻みに震え進んでいるんだかわからない状態だ。


「やっと毒が効いたみたいだナ」


重低音のくせにどこかリズムのあるその声は今何と言っただろうか。毒・・・確かそう言っていた。しかし、いったいいつ・・・・。よく考えてみれば思い当たる節があるじゃないか。さっきささった針に毒が塗ってあったのだ。


「おいおい、随分ひどいことをしてくれるもんだな」


だんだんとこちらに近づいてくる男は右手の鎌を空高く振り上げ妙な笑みを光とかした口で作っている。俺があきらめかけたそのとき、全身が緑色の魂法に包まれた。ふと気が付けば体が動く。パルムが回復系魂法でもかけてくれたのだろう。


「なぁ、知ってるか。人間っていう生き物はな。絶対に一人じゃ戦えないんだ」


俺の一言と同時に振り下ろされた鎌は空中で火花をはじけさせた。そして停止する。


「なぁ、知ってるか。俺の仲間には世界一の魂法使いがいるもんでな」


俺は思わず笑みをこぼすと右手に握った剣を握りなおした。そして、魂法剣技を発動させる。目を焼き付ける発光。おくれてやってくる波が俺に安心感を与えた。


「俺は一人じゃ何もできない。でもな、結果的にそれが2人、3人となれば力はその分増すってことを覚えておけ、あの世までな」


正直ちょっと格好つけたところがあったが、まぁそんなことはどうでもいい。俺は再び地面をけった。そして奴に剣を振り下ろす。右斜めから振り下ろされた剣は鎌によって防がれるも俺の攻撃は決して一撃ではないんだ。最大は70。素早く剣を引いた俺は2げきめの連撃に入った。それもまた火花を散らして防がれる。それでも俺の剣は加速していく。


もはやスローに見えた相手の鎌を俺は身後にかわし生身の体めがけて剣を打ち込む。確かな感触が手に伝わってきた。それでも奴は幽霊みたいなものだ。一撃で死ぬような相手ではない。俺は再び剣を引き戻し右に左に二連撃で切り裂いた。吹き出すのは血ではなく紫色のリボン。つぎ次に奴の体を引き裂いていく俺の剣は光を明滅させながら魂法の終わりを告げている。66・・67・・68・・69撃目を打ち終わった俺は奴の体に剣を突き刺す。そして、その時を待った。一瞬間をおいて発生したのは魂法剣技特有の終了時に発生する爆風。


「ds;fじゃうぇおいf」


奇妙な絶叫を発しながら男の体は一本一本の小さなリボンとなり空気に溶けていった。

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