待ち合わせの果てに 4

「何名様ですか?」


女性の店員に声をかけられ俺は


「1」


とだけこたおえると愛想よく「かしこまりました」とうなずく店員のあとをついていった。

用意された席はカウンター席。まぁこの人込みならば仕方ないが俺は酒が飲めないのでなんとなくいずらい雰囲気だ。


「マスター、テキーラ一つ」

「いや、こいつにはウーロン茶を一つくれェ」


聞きなれた声が俺のオーダーを打ち消した。

思わず横をみる。そこにはずんぐりと丸い体に真っ赤な鎧・・・ではなくポロシャツのような薄い布地の半袖を着た男が座っていた。そう、男の名は・・・フィル。


「なぁ、兄ちゃんよォ。あんたさァ。何かを失ったときの気持ちってわかるかァ?」


俺は思わず首を振る。


「そうかァ、でも、きっと気が付いてると思うぜェ。俺は最近唯一の血縁関係にあった大切な家族を失ったんだァ」


珍しく悲しそうに話すフィルは俺の存在に気が付いているのかわからないほどによっている。


「それも、殺人集団の奴らに殺された。俺の親友みたいなやつがよォ。必死に守ってくれたんだが、そん時そいつには武器がなかったァ。当然だ。迎えに行くだけで武器なんて持っていくのはただの阿呆のやることだ。そんなの物騒で仕方ねェ。現に俺も持ってってなかったしなァ」


俺はこぼれそうになっていた言葉をついつい吐いてしまった。


「それで、その親友みたいなやつとはどうなったんだ?」


するとフィルは大人っぽい顔で、しかし俺には一切視線を合わせずににやけた。


「そいつは・・・どこかに行っちまったァ。

俺はあいつが好きだったァ。あいつらと一緒にいる時間が好きだったァ。家族でいる時間のように感じられたァ。だから、俺はそれを永遠にとっておきたかったんだが・・・・壊しちまったァ。自分の一言で・・・おかげでみんなばらばらだァ。一人は一緒にいてくれてんだがァ、そいつだって見てる場所は全く違う。

結局はどっかいっちまった仲間のことを見てるんだァ・・・・みんな、好きだったんだよォ、俺たちの時間が・・・・」


そんな言葉が俺の心を細かく振動させた。再び数てきの暖かい水滴が頬を伝う。


「なぁ、兄ちゃんがこの店を出た後、年頃は

18くらいの瑠璃色の髪の女の子に出会うはずだ。そのときは・・・・その女の子をたのんだぞォ」


「ガタン」俺は椅子を揺らして立ち上がった。

いいのだろうか。イブにあって・・・セフを救えなかった俺が・・・。俺は走った。自分が傷つかない道・・・現実から逃げるために・・・。

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