待ち合わせの果てに 3

 柔らかな光が差し込む窓に部屋の半分を占領したベッド。俺はそこから起き上がることができなかった。俺は昨日人を31人殺した。


セフと、あのフードの奴らだ。きっと彼らは

殺人集団のうちの一人だろうが人を殺したことには何一つ変わりがない。気分が重い。俺はあの時、何もできなかった。もう失いたくない。こうして閉じこもっていればもう二度と誰かを失うこともないし、誰かに出会うこともない。そもそも割に合わなかったのだ。いくらタイムスリップして、なぜか強くなったとしても、所詮俺は引きこもりだ。だったら引きこもりは引きこもりらしく一日中部屋の中にいればそれでいいんだ。そもそも俺はなぜ、こんな無謀な戦いをしているのだろうか。

引きこもりがずっとたおされなかった伝説のドラゴンをたおす?いったいどんな王道ファンタジーだ。もうそんなの読者は見慣れちゃってんだよ。俺は思わずほくそ笑んだ。


「グ~」


空気を揺らす重低音。というか俺の腹の鳴る音なのだが、どうやら腹が減っているらしい。

よく考えれば昨日の夜はなにも食べていない。

そりゃ腹も減るわけだ。内心で納得しつつ

俺は立ち上がった。いつものレザーコートを

はおい背中に剣をはめ込んだ。そして部屋の扉を開け宿屋を後にする。

簡単な動作だが、今の俺にとっては以上に体力を使うものだった。5分ほどかけて向かった先はあの城壁前の商店街。うずうずと動きたがる足に合わせて俺は進んだ。そして、ある一軒の店の前で停止する。そこはフィルとパルムがはしゃいだあのお店の前。俺の手には自然とそのレアらしい木の実が収まっていた。だんだんと視界が歪んでいくことに気が付く。遅れてそれが涙であることにも気が付いた。俺はこの少しの間にたくさんのことを失った・・・いや、奪ってきた。人の命だっり誰かの大切なものだったり・・・。いずれも俺には何もできなかった。その結果がこれである。すべてを失い現実から逃げる哀れな人間。しかし、俺にはこれがお似合いなのだ。元の時間で引きこもっていた理由を・・・大切なものを忘れた俺にはこれが限界なのだ。


「おい、にいちゃあん、大丈夫か?」


心配をかけてくれたらしいおっさんは俺の肩をポンとたたく。


「何かつらいことがあったならあの店に行ってこい。きっと話くらい聞いてもらえると思うぞ」


茶色く染まった肌にひげを蓄えたおっさんの指先を見てみる。そこではおしゃれにクリスタルが光っていた。


「今すぐ言って来い。この町の知恵袋ってもんだからよ」


俺はふらつく足取りでその店に向かった。今、自分が何をしているか。そんなことはどうでもいい。ただ、慰めがほしかったのだ。浮かぶクリスタルをくぐて扉を押し開けた。そのとたんに鼻をつんざくアルコールのにおい。どうやらここは酒場らしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る