待ち合わせの果てに 5

俺はイブにあいたい。柔らかな声にもう一度癒されたい・・・慰められたい。しかし、ダメなのだ。俺がイブに合えば彼女と俺たちはハバネロの討伐に参加するだろう。そうなったら間違えなく俺たちは死ぬ。なぜなら、伝説のドラゴンを引きこもりが倒せるわけがないからだ。そんな無謀なことに命を使うならここでバラバラになったほうがどれだけましか・・・。俺は自然と増していく涙に気が付いた。その水滴にはたくさんの希望や絶望、そして思い出が込められている。これをすべて流してしまえば俺はもう迷わなくて済むのだろう。すべてを浄化してくれる涙という名の魂法に思い出も、希望も、そしてまた絶望も落とし込んでもらって・・・。俺はそれでいいのか?。いや、余計な希望を持ってはいけないんだ。俺と出会った人間はじきに死ぬ。だって相手はあの化け物なのだから。だったら・・・何かを失うくらいなら、いっそのこと出会わなければいいじゃないか。これからは一切の出会いを切り捨てよう。それが俺の好きになった人間が唯一幸せに生きるための道なのだ。俺の目からは涙が止まらなかった。風にあおられて後ろに流れる水滴は太陽からの西日を受けてキラキラと輝く。俺はただひたすらに涙を流した。走りながらとにかく泣いた。そうしなければ自分を見失ってしまうような気がしたから・・・そして、目の前が唐突に暗転した・・・。

はっと気が付けばそこは暗闇の中だった。


「ブレッド君。君は随分とおこまりのようだね」


どこからか聞こえてきた無機質な声が俺の耳を通っていく。声のする方を見てみればそこには純白の白衣を着た知的な男が立っていた。


「君と会ったのは大体四日ぶりといったところかな」


そう、こいつはあの教会であった謎の男。


「警戒はしないでほしい。今回は君に褒美をやろうと思ってな」

「褒美?」


かすれた声で疑問が飛び出す。


「あぁ、褒美だ。この間は見事にあの男を殺してくれたからな。その褒美として、ブレッド君にはいいことを教えてあげよう」


話をしていると無表情で無機質なその音が、どこか人間離れしたような不思議な感覚に襲われてくる。そして、俺の眼前が突然スパークした。思わず頭を抱える。


「落ち着きたまえ、今、君にはハバネロによって奪われた記憶の返却を行っている。じきに思い出したかったことのすべてを思い出すだろう。しかし、そのとき君は混乱するはずだ。

だから、今のうちに君が最もほしがっていた情報は伝えておこうと思う」


男はその言葉を最後に淡々と語り始めた。

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