日が沈んだ世界 11

 俺は後ろにあの記憶喪失だという少女が付いてきていることを確認し、フィルとパルムが

待っている一回へと向かった。そしてリビングの扉を開ける。


「おっそいぞォ。ブレッド」


フィルはもう待ちきれないという風に銀色のナイフを振り回していて、パルムはそれを迷惑そうに眉間にしわを寄せながら軽々かわしている。


「早く食べようよブレッド」

「おう、ごめんごめん」


そういいながら三つの洋風椅子に向かった俺をなぜか二人が目玉を丸くして、口をみかんが一つすっぽり入るくらい大きく開けて見ていることに気がついた。そして、その向けられた視線が俺ではなくその後ろで玉虫色のセミロングを小さく揺らし、純白に輝くショートのスカートから長くすらりとした白めの足を延ばす少女に向けられていることも。しばらくの間、フィルとパルムは表情を固めていたが次の瞬間フィルが椅子をむき出しの床に倒して立ち上がり、イノシシのごとくスピードで俺を超えて後ろの少女の前で膝まついた。


「こ、こんにちわ。お元気ですかァ。お嬢さん」


フィルのきめ顔に少女は一歩どころか3歩ほど退き「は・・はい」と小さく漏らした。

フィルってこういうキャラだったのかぁ~。と内心大きなため息を吐く。そして、俺は右手を大きく上げフィルの頭上へチョップを叩き落とした。


「いってェ~」


頭を抱えてうずくまったフィルに俺は苦笑いを浮かべる。すると、パルムも俺の隣までゆっくりと歩いてきた。


「ところで、君の名前は何というの」


パルムの非常に冷静な判断に俺は大きく感心してしまう。


「すみません・・・私、名前が思い出せなくて・・・」

「あっ、そうそう。この子、記憶喪失らしいんだ」

「「・・・・」」


しばらくあたりを沈黙という名の重たい空気

が包み込んだ。


「ちょっ、ちょっと待たァ!それってどの程度のやつなんだ・・・?」

「いやぁ~、実は私、ほとんど何も記憶ないんです」


なに、俺もまさかそれほどとは思ってなかった。


「それじゃ、まさか・・・どこから来たのかとかも覚えてないのか?」

「はい、すみません」

「いやいや、君は謝ることないよ」


そんなパルムの優しい言葉がこわばった少女の表情を柔らかくした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る