日が沈んだ世界 10

「なぁ、フィル・・・その武器は持ってて恥ずかしくないのか?」

俺はフィルが家の扉を開けた途端に昨日から気になっていことを訪ねてみることにした。


「いや、別にィ」


フィルは背中にかかった銀色で竜の装飾が付いた立派な弓を揺らしながらニコニコとはを見せて笑っている。


「ところでフィル?今日は西にある砂漠エリアに狩りに行くんでしょ。ここからどのくらいかかるの?」

「大体30分くらいじゃないか」


そう、今日向かうのは草原エリアよりも、少し強めなモンスターの出る砂漠エリア。

普段はあまり剣士たちですら立ち入ることはないが俺たちのレベルだったら余裕な範囲だ。


俺たちはカルックスの白い街並みを抜けて西にひたすら歩いた。目の前に出現したモンスターは草原地帯ではあまり見かけない巨大サソリや大きなトカゲなどでかなり生命力が高かったが、大体は瞬殺することができた。

 障害物を乗り越えてしばらく歩いていると目標の古代湖という湖に出た。それほど大きいというわけではなく、その湖の直径は100メートルちょうどだということだ。


「本当にまん丸だなぁ~」


フィルのあほみたいな反応に俺はあきれた表情でにらみつける。


「なんかハバネロとの戦闘中にハバネロの魂法でできたらしいよ」


まじかよ。ハバネロ強すぎだろ、俺はそう内心思う。


「おい、あそこだれか倒れてないか?」


フィルの突然の言葉に俺たちは互いに顔を見合わせる。


「そんなわけないだろう」


冗談半分でフィルの指さした先を見る。そこには短い草と砂漠独特の乾いた砂、そして・・・

人ォ!

俺が気が付いたときフィルはすでに土煙を上げて走り出していた。


「何だあいつ・・・」


デブが猛烈なスピードで走るという異質な状況に、つい疑問が生まれてしまう。

フィルは戻ってきたとき、背中にセミロングの緑髪とクロスした双剣が目立つ女の子を乗せていた。


「なぁ、その子どうするんだ?」

「う~ん。一緒に旅するってのはどうだ?」

「いいんじゃないの」


パルムのあまりにあっさりした答えに俺は多少驚き後ろに退きながら「おっ、おう」と小さく応答する。

俺たちはそのままフィルの家に向かった。



「ここは・・・どこだろう」


そう呟きながら少女は温まった布団を持ち上げ、固めなベッドから上半身を持ち上げた。

そして、あたりを見渡す。10畳ほどの広さの部屋にすこし小さめのたんすと今自分が座っているベッドだけが並べられていた。


「こんこん」、唐突に扉が開いた。すっと伸びてくる白めの手は貧弱に見えるがどことなく力強いように感じられる。


「だれ?」


少女が声を上げるとその手は一瞬ビクッとゆれ、手の持ち主がすっと現れた。膝まで伸びる茶色のレザーコートに真っ白いぼさっした髪。身長はそれほど高くないがなんとなく大人びた雰囲気を漂わせている。


「おっ、起きてたのか。俺はブレッドだ」

いきなりの自己紹介に少女は一瞬思考停止するがすぐに自分の自己紹介をしようと口を開く。


「私は・・・・・・・あれ?」

「どうした?」


出てこない。名前が出てこない。というか一体どこに住んでたんだっけ?


「私・・・だれでしたっけ・・・」


しばらくあたりを沈黙が包み込んだ。


「知るかよォ!」


ブレッドの大き目な突っ込みが沈黙を打ち破る。


「まさかとは思うけど・・・お前・・記憶喪失ってやつか?」

「さぁ・・・」


あまり自覚はないがたぶんそうなのだろう。

少女はなんとなく伸びをしてみると背中に何かがかかってるのが分かった。それを取り出そうと大きく手をまわす。そこにあったのは二本の剣がクロスした双剣だった。


「あっ。それ、もともと君の背中にかかってたぞぉ。きっと記憶喪失前は剣士だったんだろうな。女剣士なんて初めて見たなぁ」


少し感心したようにうなずくブレッドだが正直言っていることの意味が理解できない。

私が昔剣士だった!。そんなことあるのだろうか?。


「そんな感じは全くしないけど・・・」

「へぇ~記憶喪失ってそんなもんか?」

(お~い、ブレッドォ。昼飯、セフが作ってくれたぞォ)


下から聞こえてきた酔っぱらいを連想させる声に、少女は全身をピクリと揺らしながら「おう、今行く」と楽し気にわらって答えたブレッドをなんとなくにらみつける。


「まぁ、いいから君もいこう。セフの料理はおいしいぞぉ」


そう言ったブレッドの顔は大人びた外見とは裏腹に、まるで子供のように笑っていた。

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