日が沈んだ世界 5

「いや~、戦った戦った」


 そんなフィルの言葉に俺も続いて肩を落としたくなる。しかし、まだ終わってはいないのだ。これだけのはずがない。なぜなら何もないところにこれだけのゴブリンが集中的に住んでいるはずがないのだから・・・。次の瞬間俺のいやな予感は的中した。


俺の耳に入ってきたのは今までの俺の人生で聞いたことがないほどに低くて獰猛な殺気を持った声。そして薄れていく黒煙の中から姿を見せたのは強大な斧を右手に持った同じく巨大なミノタウロス・・・。頭には角が生えすさまじいまでのオーラを真っ赤な肌が一層力ず良く見せている。俺はいつものように両手を掲げたパルムと同時、すさまじい勢いで地面をけった。まともな人間の動体視力なら絶対にとらえることができないそのスピードだがミノタウロスにははっきりと見えているのか空中に飛び上がり奴の頭を弾き飛ばそうとした俺の腹に左腕の見事なまでの鉄槌を打ち込んできた。すさまじい力だ。俺は内臓がつぶれるのではないかと思うほどの圧迫感に耐え、おとなしく後方へと吹き飛ばされる。刹那俺がフィルの後ろあたりまで吹き飛ばされたところで熱風を放った炎が飛んできていた。それをフィルはたった一つの盾で見事に防いで見せる。その一方でパルムは地面に両手をつき何やら地面に魂法を打ち込んでいる。そして、ミノタウロスの全身をとても人間が打ったようには思えない雷が包み込んでいた。その傍らで俺は打たれた腹を抱え口から洩れる体液を左手で拭っていた。

次の瞬間俺は全身に寒気が走った。なぜなら

その体液は真っ赤な鮮血だったからだ。信じられない。この時間軸で初めて見た血に足が震え手がこわばっていく。このままでは・・・

仲間が全めつしてしまうそれだけは・・・何とか、何とか避けなければ・・・。でも、どうすればいい。


「ブレッド!」


そんな叫び声が俺の耳に届いてきた。声の持ち主、フィルに俺は視線を送る。その眼は強く何かを・・・俺にいけ!と訴えてくるような視線。するとフィルは盾に波を浮かべ両手を盾からはなした。その盾はどういう原理か浮遊し始める。と、次の瞬間。フィルは背中にひそかにかかった素朴な木弓にギラギラと鋭い金属光沢を放つ矢を引き始めた。そしてその矢を打つ。すさまじい轟音を放ち緑色のラインを引きながら飛んで行った矢は身後にミノタウロスの眼球を打ち抜きもうどうな叫び声を出させる。いまだ。こちらを見るフィルの目はそう訴えていた。そして俺は地面をける。何度でも、あいつを倒すまでいくらでもけってやるこの地面を。俺は持ち前の瞬発力であっという間に距離を詰めミノタウロスの寸前で一瞬制止する。


「セァー!」


そんな雄たけびを発した俺はミノタウロスの筋肉質な腹へ刃を突き立てた。そして、剣をあの波が包み込む。暗闇を明るく照らす俺の剣は短い呼吸とともに空気を切りもう後ろにいるミノタウロスの背中をさらに切り上げる。俺の波は全く消える様子もなくのっそりとこちらを向いたミノタウロスの腹を勝ち割った。右に左に降られていく俺の剣は一撃一撃確実に奴の肉をえぐっていきついにはあたりを黒煙が埋め尽くし始める。当然ミノタウロスも反撃してきた。俺の眼前まで迫ったその斧は空気を揺らしだんだんと接近していく。(まだだ!まだ、終われない!)俺は心の中でそう叫びさらに明かりを増した剣を真っ向から斧に衝突させる。そして、壮大な火花を飛ばし奴の斧は砕け散った。勢いそのままに俺の剣は奴の胸元を切り裂く。まだ、まだだ。内心そう叫び俺はさらに剣を加速させていく。飛び散る黒煙を無視して打った剣はまるで雷撃のごとく勢いでフィルたちにインパクトを与えていく。そしてときは来た。俺は魂法の明かりが徐々に弱まっているのを悟り剣をミノタウロスの胸元に突き刺す。そして、波が消滅したそのとき魂法剣技が終わったときにおこる突風がミノタウロスの全身をバラバラに引き裂ていった。

空中を飛んだ肉片は徐々に黒煙へと変わりうっすらと消えていった。

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