日が沈んだ世界 3

 次の日の朝、俺は穴だらけの道具小屋の前で太陽に乱反射する真っ白いくせ毛を揺らし、背中に装飾豊かな鞘を取り付けた。


「俺はもう準備オケーだぞ。っつうか俺はなんでこんなことしてるんだ?」

「ごめんな。僕のわがままに突き合わせてしまって。でも、君だったらできる気がするんだよ」


こいつは馬鹿か?きっとできる気がするとはハバネロ討伐のことだろう。


「そもそも俺は平和主義なんだ」

「いやぁ、ゴブリンを2体、ボスゴブリンを1体を無傷で倒した人物を平和主義とは言わないと思うけど・・・」


まぁ確かにそうだろう。そもそもゴブリンにあった平和主者なんて聞いたことがない。


「そもそも無理に決まってんだろ。世界一の魂法使いのお前の父と世界一の剣士だったお前の父のパートナーが戦って歯が立たなかったんだろ?そんな相手に俺たちがかなうわけがないじゃないか」


そう。パルムの父はなくなっている。彼の父の名はジンクス。妙に聞きなれたように感じる名前だが俺は当然あったことがないはずだ。

そして彼のパートナーだが行栄不明らしい。パルムが言うにはハバネロの煙に飲まれたらしいが。それで俺が今持っているこの剣はどうやらそのパートナーのものらしい。

どうりできれいに装飾されているわけだ。


「でもまぁ。そんなジンクスさんにいわれちゃ、しかたないなァ」


俺がパルムと一緒に旅に出ることになった一番の理由はジンクスにある。どうやらパルムはジンクスの書いた本を今更ながら見つけたようで朝からその本を熟読していた。ジンクスが死んでからもう17年がたつらしいがそれまで本が見つからなかったことが不思議に思うところだ・・・。そして、その本には何が書いてあったのかというと・・・。


「なぁ、パルム。きっとお前の前に「ブレッド」という名の青年が現れるだろう。そのときは、その青年の剣の腕を信じてともに旅に出てほしい」とそう書かれていたのだそうだ。


ジンクスはハバネロ討伐中にパルムが生まれる前に死んでしまったから実際にジンクスの言葉を聞いたことがないのだろう。きっと

彼は嬉しかったに違いない。だから俺をこんな信ぴょう性の薄い話に突き合わせたんだ。


「あっ。そういえばパルム。なんでジンクスさんは俺がここにタイムスリップしてくることを知ってたんだろうな。それに俺の名前は一体どこで知ったんだ?」

「さぁねぇ~。きっとブラフじゃないの?」


何だ。パルムもわかってねぇのか。、っつうかその本の信ぴょう性ほとんどねぇじゃねぇかァ。思わずため息が漏れる。


「よォっしっ。もうそろそろ出発しますか。

目的地、隣町のカルックス!」

「おぉ~」


のどかな畑を俺とパルム、二つの影を伸ばす夕日が包み込み場の空気にふさわしくない突風がまだ青い麦を揺らしていた。




 「外・・・熱すぎだろォォ!」


俺の発狂を一面に生えそろった芝生が吸収していくのが分かった。ここは大都市カルックスから少し離れたところにある草原。俺たちの狩場だ。そこらへんをうろちょろしているゴブリンやその他のモンスターをだれもが恐れる中、俺たち剣士たちはぶんぶんと音を立てて剣を振り回している。


「なんだよそれ・・・。この間雨の時は・・・「外、雨降ってんじゃん」って叫んでただろ」


隣ではパルムが両手につけた軍手を額につけている。きっと俺の言葉にあきれたのだろう。


「・・・・よっし、まだまだ狩りますか」

「一体その間は何だよ」


パルムは俺に疑問形をぶつけた後、両手を前に突き出して前方の黒皮の防具で全身を固めたゴブリンに突っ込んでいった。俺はそのあとに続いた。敵ゴブリンの数は3体。パルムは両手に波を浮かべて魂法を打つ構えをとっているがおそらく彼は接近戦のまま1体を倒すきだ。となると俺はその援護をするために周りにいる2体のゴブリンを倒す必要がある。


俺は脳裏でパルムも考えているであろう作戦を何度も繰り返し背中のhopesaverと掘られた柄を握った。ホープセーバー・・・・

希望の救出者・・・・か。ちょっと重たい仕事・・任されちまったなぁ~。俺は内心で騒ぐプレッシャーをはねのけ、目の前にまで接近したゴブリンに刃を突き立てた。刹那、

ゴブリンは黒煙をばらまいて消滅した。どうやらこの世界のモンスターは死ぬと黒煙をばらまいてばらまいて消滅するらしい。原理は不明だが・・・・。ッつうかこの時代は一体どれだけ物理学者を裏切れば気が済むんだか・・・。いつものようにため息を吐きそうになる。

そして、俺の右側で両手剣を振り上げているゴブリンを一振りで吹き飛ばした。

それと同時、さらに隣では眼前の状況と同じく黒煙をばらまいたゴブリンが消滅していっている。俺とパルムは互いの手のひらをぶつけあいハイタッチをかわした。


と、そのとき「うわァァァ!」、どこからか

唐突に聞こえてきた叫び声にパルムと俺の手が一瞬硬直する。


「ちっくしょォ!これが最後の飯になるとは・・・」


俺たちが走り出すと同時に拍子抜けした言葉がここから50メートルほど離れた距離にいるゴブリンの集団のあたりから響いてきた。


「おい。もしかしてあいつふざけてるんじゃないのかぁ」


思わず俺は深いため息をつく。


「そんな・・・わけないだろ」


パルムも多少疑っているようで一瞬のためを作る。そして、魂法を打つ構えを披露した。

俺は俺で背中のホープセーバーに手をかける。

土煙が上がった。俺は地面を強くけり秒速50メートルの全力でゴブリンの集団に接近した。俺の横を突風を作って通過していったパルムのビームは土煙を上げて一体のゴブリンを焼き尽くす。そして、俺も右手の剣に魂法剣技をまとわせ二ふりで目の前に立つ黒皮のゴブリンをすべて撃砕した。とてつもない量の黒煙があたりを包み込んだ中、何かがもぞもぞと動く音が俺の耳に侵入してくる。


「どうしたのブレッド」


パルムは謎の音源を恐れて一歩退いた俺に気が付いたのかのんきに歩いてこちらに向かってきた。

俺は全力で黒煙を振り払った。だんだんと失せれていく煙の中、真っ赤な金属質の輝きが俺の視線に飛び込んでくる。だんだんと明らかになったその姿は胡坐を組んだ赤髪のデブであった。そいつの両手にはやたら小さく見えるサンドイッチが収まっている。


「お前・・・・誰だァ?」


俺がその「でぶ」のことを凝視しているとでぶは真っ赤な視線を俺に向けて俺が言うべき言葉をあっさりといいやがった。そしてデぶははっとしたように両目を見開きさっきまでサンドイッチが収まっていた片手を凝視し始める。


「あれ?・・・・もしかして・・・俺・・生きてるゥ!」

「当たり前だ!」


阿呆なデブに対してつい声をあらげて突っ込んでしまった。ていうか自分が死ぬかもしれない状況まで追い込まれておきながら食事するってどんだけ食事にかけてんだよ。


「なんだよぉ~。死んでないのかよ。さっきの遺言結構かっこよかったと思ったんだけどなァ」

「どこがだよォ!むしろダサいくらいだろ。お前、さっきの遺言でいいなら今から殺すぞ」


俺の鋭い目つきにデブは多少のけぞるが何かに気が付いたようで再びはっとする。


「おっ。そういえばまだ自己紹介、してなかったなァ」

「それほど遅れてないと思うけど」


その言葉と同時、パルムは俺の真横に到着した。


「そうか?・・・俺はフィルだ」

「意外と普通な自己紹介だな。俺はブレッドだ」


するとパルムは行儀よく頭を下げ


「僕はパルムともうします。以後よろしくお願いしますゥ!」


と少しテンパった様子で挨拶を交わした。もしかしてこいつ・・人見知りかぁ?そう内心思う。


「そこで命の恩人であるお前らにことは相談なんだが今度一緒に依頼でも受けないか?」「依頼?」

「もしかしておめぇら知らねぇのかァ?依頼ッつうのは単純に言えば・・・剣士の仕事だ。

依頼屋さんにいってその中から選んだ依頼をクリアすれば難易度にあった報酬をもらえるんだ」


目を丸くして口をポカーンと開けた俺たちにフィルは「おめぇら本当に知らなかったのかよォ」とつぶやいた。


「なるほど、そんなクエストみたいな便利なやり方があるとは・・・」

「クエ・・・なんだ?」


俺の一言にフィルはくびをを180度傾ける。

それを見て俺は「あっ、いやなんでもない」

と直ちに修正を加えた。


「それはそうと一体どんなクエ・・・依頼を受けるんだ?」

「そうだな・・・初めてなら洞窟探検とかじゃないかァ」


なるほど、とか、ということは結構種類があるってことか。


「でもその依頼屋に行かなきゃいけないんでしょ。じゃそこで決めよう」

「もっともな判断だな」

「そうか、よし!じゃ依頼屋まで案内しよう」

「案内もなにも一緒に受けるんだろう」

「あぁ~そうだ。困ったときは俺に言ってくれ、こいつで守ってやるからよォ」


そういいながら右側に転がる白と赤の色合いをした大きな盾を持ち上げて町の方向へのそのそととがった髪を揺らし歩き始めた。

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