日が沈んだ世界 2

「いやぁ~。疲れた」

「流石に僕も疲れたかなぁ~」


そんな会話が夕焼けの中、石づくりの中世ヨーロッパ風の建物間に響いていた。想像していた生活となんとなく違う気がするんだが・・・。という我がわがままは置いておいて俺はついてきた筋肉をツンツンとつついてみる。毎日朝日が昇った瞬間に起きて急いで支度してパルムの畑に出発する。そんな生活を続けて早くも三〇日が過ぎていた。正直俺はこの生活に合っているらしく案外楽しんでいる。しかし、運がない俺にそんなに長く平和な日が続くはずがなかった。事件が起きたのはそんな平和な日常を過ごし始めてから三二日目の朝のことだった。・・・



「なぁ、パルムそろそろ、飯にしないか?」

「そうだな。そろそろご飯にしようか」


そんな会話を交わした俺とパルムは畑の裏にある木の影に入り込むように座った。

汗を拭き織り俺たちはそれぞれバスケットの中を取り出す。と、そのとき。あまりに唐突に背中をあずけていた木が燃え始めていた。


「うわっ。アッチィィ」


思わず声を漏らした俺とは違いパルムは俺の腕を掴み道具小屋まで引きずるとバット地面に落とす。広がる炎の中からは七匹ほどの何かが影を出し始めている。


「あれは・・なんだ?」

「ファイヤーゴブリン。おそらく村の衛兵を倒してここまで来たんだと思う」


あまりに冷静なパルムに思わずため息を吐く。


「それで、俺たちは逃げ切れるのか?」

「逃げ切れない」


えっ、マジ。と叫びたくなるほどの即答だった。


「じゃ、戦って勝てる可能性は」

「ない」

「ダメじゃねぇかァ。なにそれ、ゴブリンどんだけ強いんだよォ。っつうかなんでゴブリンなんかがここにいるんだよ」

「しゃがめ」


鋭い一声。

「なぜここでかっこつけるゥ?」

「だからしゃがめって!」


パルムはその言葉を言いながら俺の前に姿を現し、両手を前に突き出す。次の瞬間真ん中にいる巨大なゴブリンからゴブリンの肌に負けない程赤い炎を打ち出してきた。


「うわぁ~。死ぬゥ~」


俺の言葉の通りにはならなかった。なんと炎は俺の予想を大きく外れ、パルムの両手の前でものの見事にはじかれたのだ。よく見るとその華奢な両手には随分ぼろぼろになった軍手似がはめられていた。本当にこの時間軸は・・・。思わずため息が漏れる。つまり、あの軍手はマジック手袋的なもので今の炎はお得意の魂法ではじき返したということだろう。ッつかそうれなんていうチートだよ。


「なぁ・・ブレッド。この魂法、そんなに長く持つわけではないから・・・何とかしてあいつらを倒してくれ」

「そんなこと言われても・・・」


そうだ、そんなこと言われても困るではないか・・・。人類は道具を使うからこそ今まで、たくさんの野生動物たちと渡り合ってきた。ならば何か道具さえあれば俺にだってあのごつごつのゴブリンたちに対抗できるのではないだろうか?そしてあたりを見渡す。あるものはいつも使っている鍬と植物たちの種。そして・・・えっ。ナにアレ?なんであんなところに剣が?なんと細かな装飾の施されたいかにも高級そうな剣がぶら下げられているではないか。なんであるかは知らないがちょうどいいか。


「おりゃァ」


俺は雄たけびとともにぶら下がる剣めがけて走り出した。そして近くで見るとますます美しく見える剣を一気に引き抜き、黒光りする刀身に黄金に輝く刃をあらわにする。とてつもなく重いはずなのになぜか軽々と持ち上がる。そして俺は、剣の構え方どころか剣すら持ったことがないのにあまりに自然と右側に持っていき股を1足長分開いて体がよくなじんだ構えを披露した。


「へぇ~なかなか様になってんじゃん」


パルムのそんな一言と同時、俺は地面を煙を立てて強くけった。疾風のごときスピードで加速する俺の足は一瞬で一番手間にいるゴブリンに接近した。そして、生まれて初めてなのに妙になれた感覚で右手の剣を雷撃のごとく勢いで振り下ろす。(ぐしゃ)そんな鈍い音を立ててゴブリンの上半身は俺の頭上を飛び下半身は地面に倒れこんだ。手に残る妙な感覚を無視してさらに眼前に襲ってくる2体のゴブリンを一瞬で切り捨てる。さらに地面をけった俺の右足は再び右側に変えた剣を震わせもうれつな速度で、中心にいる一番大きくて一番古傷の多いゴブリンに突っ込んでいく。


「おりゃ!」


短い雄たけびとともに空中に飛び上がった俺は右手に構えた剣を相手の胸元に叩き落とす。


「がっしゃ~ん」そんな金属同士がぶつかり合ったときにおこる独特の音を放ち、剣はゴブリンの左手につけられた盾によりはじかれる。そして、奴は右手に持った斧を振り回してきた。なぜだろう。ものすごくそのふりがゆっくりに感じられるのは。俺はその攻撃を空中で身をひるがえしてかわし、がら空きになった胸元を二回連続で切り裂いた。「うぐぅ」短く漏れたゴブリンの悲鳴を無視し、俺は少し後方にすとんと着地する。その刹那。一切のタイミングを逃さす右手になれた感覚で力を入れた。甲高い金属音を出して振動しだした剣を横目で見てみれば真っ赤なオーロラのような波が剣を包み込んでいるではないか。俺は思わずニヤリと笑みをむけたあと

ゴブリンの赤い目玉をにらみつける。そして、

「セァー」という発声と同時、弱い光を発する剣はゴブリンの背中を貫いた。

 わざを打ったところから発せられた突風と「どさっ」というゴブリンを殺した罪悪感に耐え、俺はさっきまでやつがたっていた場所を凝視する。周囲には真黒な黒煙が立ち込めゴブリンは一切の肉片も残さずに消えてしまっていた。


「安心して、ブレッド。あいつらは人間とはちがうから。殺しても罪にはならない。それにあいつらは感情はないくせに人間に対して悪事ばかりはたらくハバネロの仲間なんだから・・・」

「気を使ってくれてるのか?」

「まぁね。人を殺したのと同じ感覚でモンスターに合ってたらいつかは死んでしまうからね。まっ、それはおいておいて、ブレットなに今の?超すごいよ。あれ、剣術型魂法だよねぇ。ねぇ!」


何だこいつ。妙にテンションたけぇなぁ。


「さぁ?よくわかられねぇけど・・・パルムがそういうならそうなんじゃねぇか?」

「すごいよ!ブレッド。魂法剣術なんて生まれて初めて見た!もしかして、前の時間軸では剣士の職業についてたりするの?」


まるで子供・・。子供のように目を輝かせるパルムににやりと笑みを浮かべる。


「いや。まったく。一切違う。そもそも俺のいた時間軸はここよりももっと発展してて

モンスターなんていなかったからな」

「そんな時代がいつか来るといいんだけど・・・」


俺にはそのつぶやきがやたらと重く感じられた。

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