世界が始まりかけている今、あなたは何を思いますか?
初心者@暇人@
物理法則なんてしんじない
日が沈んだ世界 1
前書き
あたりの空気を冷たい緊張感が包み込んだ。俺たちの仲間は計5500人。全員が真っ白い服に赤いドラゴン型の紋章をつけた討伐隊のユニフォームを着ている。
ここは神都ヴォーストの海を挟んだ隣。年に一度人類の最大の敵であるハバネイロドラゴン・・・通称ハバネロが下りてくる地、ハバネロ谷だ。
「なぁ、俺たちはなんでこんなところにいるんだろうな、ジンクス」
俺の乾いた声が緊迫した空気に響いていく。
「そんなこといまさら言ったって何も変わらないだろブレッド。俺なんてまだ生まれてない子供が待っているんだぞ」
「そうだな。この戦いが終わったらその子供俺にも見せてくれよな」
ジンクスは小さくうなずくだけだった。
俺とジンクスの会話はそこで途切れとうとうその時は来てしまった。俺の視界には輝くウロコに長い首、絶大な圧迫感を与える大きな翼、ハバネロが映り込んでいた・・・・・・
本文
「ピコン」、耳障りなメールを告げる音が、俺の久しぶりに聞いた音と呼べる生活音だった。
送り主が俺の友達であることを願ってノートパソコンをあける。しかし、送り主はまさかの新聞会社であった。
少しがっかりしながら、カーテンは締め切られ、電気も消されきった部屋のデスクチェアーに腰を落とす。目のまえで光るノートパソコンには俺の友達の少なさを象徴している迷惑メールがいっぱいに並んでいた。
引きこもり生活をはじめて早五ヶ月。もはやなぜ引きこもっているのかどうかすら覚えていないくらいだ。確か・・・。いや、やっぱり思い出すのはやめておこう。なんか気分が悪くなる気がする・・・。
俺は落ち込む気持ちを抑え久しぶりに太陽にでも顔を合わせようと思いカーテンに手をかけた、と、その時だった。突然ずっと消えていたはずの明かりが点滅し始めノートパソコンに至ってはノイズ音を響かせ始めている。俺はとうとう気が狂ったのか「おい、パソコン。お前、せめて壊れるならエラーとかそれっぽいこと言いやがれ。しかも、なんでパソコンがノイズ音をばら撒いてんだよ!なんかちがくねぇか?」などとコンピューターに対して俺のコミュ力限界のツッコミを入れ始めている。
次の瞬間、空気を大きく揺らすほどの地震が部屋とパソコンを襲った。
「おい、パソコ~ン!」
伸ばした右手は全く届く様子はなく、見事に地面に落下していったノートパソコンは鈍い音ともに砕け散り、四方に散乱していく。俺は悲しさのあまりに両肩を大きく落とし右こぶしを強く握った。
「この野郎・・」
喉から小さく漏れた怒りの言葉に体が勝手に動く。何故か向かった先はさっき開けようとしたカーテンの奥。明るい外が広がるはずの窓。俺は右手でカーテンを大きく開き左手で瞬きしているうちに窓を開け切った。
「この地震のバ・・・・カ・・・」
言葉が詰まった。全てが違う。目の前に広がるのは明るい外ではなく真っ暗な空間。そして、今まであったはずの建物は全て燃え尽き、今では真っ青な炎をそこかしこに上げている。
「何だあれは・・・」
目線の先には凄まじく大きい何かが中心に写っていた。輝くウロコに長い首、裏山一個分はあろう大きな翼。あれは、まるで神話に出てくるドラゴン。
刹那、そのドラゴンの全身から放出されたむらさきいろの煙が街中に広がって行くのが見えた。全身がこわばってなかなか動こうとしない。気がついたときには遅かった。目の前に広がるのは暗闇でも明るい光でもなく紫色に影を作っていく煙だった。その光景を最後に俺の視界はどんどん狭まっていき奇妙な浮遊感が全身を襲った。
コロコロと鳴くやわらかな鳥のさえずりが
俺の重たい体を持ち上げていくように体がすっと持ち上がった。
「いやぁ~よく寝た」
俺は大きく伸びをして気がついた。高く上げた右手に何かがぶつかった感触がしたからだ。ふときになりあわてて振り返る。そこには予想もしていなかったもの、まさかの植物があったのだ。よく見ると俺が寝ていたのはいつもの布団ではなく光に照らされて黄金に輝くコケ。さらに目を凝らしてみるとそこらじゅう一面に白樺の木が連なっていることがわかった。
どうやらここはどこかの森らしい。
「でもまぁ。そろそろ腹減ったしな。もう帰るか」
と、その時、全身から鳥肌が立つのを感じた。ふと気が付いてしまったのだ。最も大事なことに・・・。
「帰るって・・・・どこに?」
一泊の間を置いて俺は大きく深呼吸をする。
「落ち着け、俺、落ち着け。ここはどこだ?なんで俺はここにいる?家は?一体、どこにあるんだよ」
雄叫びにも似た声が鳥のさえずりに続いて森中に響き渡った。ここがどこなのか。それがわからない以上むやみに動くわけには行かないが、森の光景だけでは場所を突き止めるには情報があまりに少なすぎるのではないだろうか。俺は意を決してそこらへんを散策してみることにした。
あれから大した発見もなくただ呆然と森の中を歩いていると、どこからかなにかを地面に強く打ち込む音が俺の耳に届いてきた。俺は恐れながらも音の根源へと向かう。音の根源はそう遠くにあったわけでもないが正直引きこもりの俺にとってはなかなか距離のあるしんどいものであった。
足を進めるにつれだんだんと大きくなっていくその音は淡々と機械的に音を出し続け、それが自然現象ではないことをアピールしている。俺の勘違いのような気もしなくはないが・・・。そのまま自分の勘を信じ森の中を歩くこと数秒。俺の視界には目覚めてから初めて人の姿が写っていた。そいつは俺に一切気が付くことも無くただ懸命にくわを振り上げては落とし、振り上げては落としを繰り返している
「あの~」
俺の声に一切気が付く様子を見せず。どうやら彼は畑を耕しているようだ。おそらくおない年ほどだと考えられるその茶髪の青年は青いポロシャツ似の服を汚し、未だに
畑を耕し続けている。
「あのォ~、そこのお兄さん」
一瞬振り上げた鍬を硬直させる素振りを見せたが再び地面に落とす。
「なんだよ。実は聞こえてんじゃねぇの?このたこすけ」
俺が小声で口ずさんだ悪口に次の瞬間、青年に振り上げられていたはずの鍬が俺のがんめんめがけてとんできた。
「ぐふっ!」
あまりの衝撃に思わず声をあげる。
「あっ。ごめん。思わず手が滑った」
なんだあいつ。結局聞こえてんじゃねぇかぶち殺してやろうか。内心そう思う俺であった。
穏やかな煙が真っ白のコップに注がれた紅茶からむんむんとたちあがっている。
「国歴って・・一体どいうことだよ」
そして、俺の混乱した言葉が自己紹介で「パルム」と名乗っていた青年に浴びせられた。
「えっ。うん。どうしてそんなに驚いてるんだ?ブレッド」
当然の答えだろう。もし、俺がパルムの立場で同じような質問をされれば全く同じ答えを返すはずだ。
「いや、何でもない。俺・・・実は・・・タイムスリップかなんか分かんねぇけどそれ的なことになったらしい・・・」
するとパルムは意外と平然とした顔で「そう」
とあまりにあっさりと答えた。
「えっ。パルムは今の話、信じるのか?」
「信じるもなにも、対して驚く話でもないと思うけど」
なにぃ!俺は内心そう思った。
「一体どういうことだァ?なぜ、なぜ、驚かない。ま・さ・かこんなことが日常茶飯事で起こるっていうのかァ?」
頭を抱える俺に満面の笑みで「いや、別に」と答えたパルムは丸型デスクを囲む丸いチェアーから立ち上がり何やら西日の差し込む窓の隣に立つ本棚から一冊の本を持ってきた。
そしてそれを丸型デスクのど真ん中にそっと置く。
「ハバネーロドラゴン通称ハバネロ。今から一万年前。そいつは初めて姿を見せた。当時最も発展していたある都市がたったの数秒でなくなるほどの力を持った化物。それがやつだ。今までそいつの討伐に成功した人物は一人もいなく、せいぜいできたのは封印まで、それでも今まで一番長い封印は一二〇〇年が限界だった。ハバネロの攻撃方法は不明。ただわかっていることはバカみたく強いということと・・・。あるハバネロから排出される空気を吸ったら違う時間軸に全く違う年齢で最悪の場合は〇歳からの年齢で再び人生をやり直すことになるということだけ。その変化する数値はアトランダム・・・」
なるほど、よくできた話だ。つまり、この時間軸には人類の歯が立たない化物がいてそいつは空気を吸っただけで違う時間に飛ばされてしまうからそのハバネロについてはほとんど何も分かっていないということだ。とると俺はタイムスリップする前ではそんな化物にあっていたということなのだろうか?。たまたま、俺がいるときにハバネロが復活したということなのだろうかだとしたら俺はよほど運がないらしい。俺があの時見た光景は確かに凄まじかった。人口一〇〇万の都市がほんとに一瞬で灰になったあの光景は行かれているとさえいうことができるだろう。しかし、俺の友達だった奴・・・いや、俺に友達なんていなかった。なんといっても俺はずっと家に引きこもっていたのだから。あれ?どうして引きこもっていたんだっけ?なんでだっけ?
確か大切な何かを失ったような・・・。
俺の思考を遮ったのは「ブレッド、ブレッド」
としきりに呼ぶパルムの声だった。
「あ。わるい。ついかんがえごとをしちまって」
「そう・・・。でもまぁ仕方ないな。君もきっとハバネロにやられてここに来たんでしょ。じゃ、まだ混乱してるだろうし・・・あっ、もう外暗くなってきたなぁ~」
その言葉のとおりさっきまで西日を伸ばしていた窓からは月明かり独特の白い光が伸びていた。パルムは何やらクリスタルをとりだしぽんと指でタッチした。するとクリスタルは一瞬で部屋全体を照らすほどの明かりにまで明るくなり俺とパルムの影を長く伸ばす。話では聞いていたがどうやらこれが魂法というものらしい。俺はこの時からこの時間軸に常識を求めるのをやめることにした。
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