第4話 スケベ心と仲直り

「チュートリアル終了。

 おめでとう、少年!

 これで君はデジラブマスタ―への道を一歩踏み出したのだ!」


あーちゃんの罵倒が終わり、涙ぐむ彼女を慰めていたところに、そんなアナウンスがスマホから流れた。


「これは珍しい。

 水のモノ姫、乙姫科の種だな。

 ニックネームは『ああああああああああああ』にしたのか。

 フムフム、良い名前じゃないか! センスが光っとる!!」


空気を読まない固定のアナウンスにイラッとする。

スマホからはグスンと涙ぐむあーちゃんの声が漏れだしていた。


アナウンスは続く。


「基本的にニックネームの変更不可能だが、例外はある

 アイテム『ナマエカエール』を使えば変更可能になるのだ。

 変えたい時にはそれを使ってくれ!!

 他にも便利グッツが買えるデジステーションに行ってみると良い。

 君のデジラブライフを良いものに変える商品が見つかるかも知れんぞ!」


営業乙っと言いたいところだけど、『ナマエカエール』には興味をそそる。

今の状況を打開できる最高のアイテムだった。


スマホの画面が切り替わり、この辺一帯のマップが表示される。

そこにデジステ約400Mの文字。


行くしかなかった!

男の子して、しっかりけじめをつけるのだ!!



・・・。

結果を先に言わせてもらおう。


『ナマエカエール』のお値段。

なんと現実通貨で税込み3000円。

ゲーム内通貨で30000ラブス。

尚、学君の所持金3000円。


はい、買えました。

買えた筈なのですが・・・


魅力的な商品の羅列には、勝てませんでした。


手に入れたのは、浜辺の水着セット。

2800円也。

効果:水属性強化。


一目見て電流が走ったんだ。

あーちゃんの為に存在してるアイテムだと思った。

強くなって見た目も最高になる良いアイテムだと感じたんだ!


え? 下心が無かったか?

・・・勿論、ありますとも。


だから、僕に後悔は無い。

無いんだけど・・・


あーちゃんにどう説明するのか?

そこが問題だった。


このゲーム、アイテムを買ってから気付いたんだけど、装備のコマンドが無い。

どうやら、プレゼントして着てもらう必要があるようだ。

装備するかはキャラクターの気分次第。

機嫌を損ねたら着てもらえない可能性だってある。

アイテムの説明にはそう書かれていた。


2800円が無駄になる。

そして何より、あーちゃんが『ナマエカエール』の存在を知っていて無駄遣いした事がばれたら・・・

もう、口も聞いてくれないんじゃないだろうか?


もう一度言いおう。

僕は後悔はしていない。

後悔はしていないんだけど・・・ 憂鬱な気持ちだった。



あーちゃんの画面を開く。


すると、画面自体がどんよりしており、キャラクターの精神状態が見るだけで分かるようになっていた。

背負向けた状態でしゃがみ込み、グスングスンと泣いている。


声をかけづらい。

けど・・・ 思い切ってみた。


「あーちゃん。

 その、、、 お詫びと言うか・・・ プレゼント。

 君の為に買ってみたんだ。

 よかったら、着てみてほしいかな」


気のせいだろうか?

あーちゃんが聞き耳を立てている様な気がする。


チラ! チラ!

僕に気付かれないようにこちらを確認していた。


期待しているのだろうか?


プレゼントボタンをタップし、水着をあーちゃんに送る。

僕は彼女の状態を察し、画面を切り変える事にした。



暫くして、あの声が響く。

会って初めて聞いた時のあの声音。


「学――ー!! 私の画面を開けなさいよーーー!!」


元気いっぱいの声に一先ずの安心。

言われた通りあーちゃんの画面を開く。


しかし、そこにあーちゃんの姿は無く。

画面はカーテンで閉ざされていた。


上向きの矢印と共にスワイプを要求する文字がある。


その通りにしてみた。



一瞬の閃光と共に少女が舞い降りる。

初めて会った時とは違い、その姿は水着に彩られていた。


淡い青の花柄ビキニにパレオを纏った姿でポーズを決めているあーちゃん。

顔は先程まで泣いていたのが嘘うような満面のドヤ顔!


素直に可愛いと思った。

初めて出会ったモノ姫が彼女で本当によかった。

そう思いながら、僕は鼻血を垂らす。


刺激が強すぎたのだ。


「ちょっと! 学!!

 大丈夫なの??? ねーてば!!」


少女の心配そうな声と共に意識が遠ざかる。

普段、外に出ていなかったツケがここに来て出ていた。


身体が熱っぽい。

そう感じた時には、気を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る