第3話 ニックネーム

気が付くとスマホの画面は切り替わり、「Get!!」の文字と共に少女の一枚絵が画面いっぱいに表示されていた。


素直に可愛い。 そう思ってしまう。


今思えば、斉藤学の人生において、女性に興味を持った経験など一度もなかった。

それはゲームの中でも同じ事。

使うキャラクターは何時だって自分に似せた男性キャラ。

勇者、学。 架空のヒーローである。


正直なところ、女性キャラの使用を避けてきた。

使ってる奴は気持ち悪い。

そんな、偏見を少なからず持っていたのだ。

ゲーム内の女性キャラに数十万、数百万を溶かす大人がいると言う。

ゲームが大好きな学にとっても、そういう輩は忌避の対象だった。


ところが、どうだろ・・・

今はスマホに映し出された少女の一枚絵に感動すら覚える。

手に入れたと言う興奮が気分を高揚させていたのだ。


・・・ちょっとぐらい良いよね?

スマホの画面に手を伸ばし、少女にふれて・・・


「だーめ!! 何処を触るつもりよ!!

 私!! そんなに安い女じゃないんですけど!!」


画面内の少女が頬を染めジト目でこちらを威嚇している。


急な画面の変化に驚き腰を抜かしてしまう学。

危うくスマホを落とすところだった。


「え? でも、どうして・・・」


スマホから目を離し辺りを確認。

そこに先程まで神秘的な美を振り撒いていた少女の姿は無かった。

それどころか誰もいない。

夏休み初頭の朝の公園。 

どこか寂しさを覚えるそんな風景を残すのみである。



スマホから声が響く。


「ねー、 あんた名前は??

 私のご主人なんだから、名前ぐらい教えてくれても良くない??」


背を向けチラッとこちらを確認しながら、照れくさそうに聞いてくる。

少女は確かにここに居るのだ。


斉藤さいとう まなぶ、13歳!!」

「年齢とか聞いてないし! 馬鹿じゃないの!!」


勢いに任せて叫ぶと罵りが返ってくる。

が、それは何処か嬉しそうな声音を含んでいた。


「学。 まなぶー。 マナブン。 マナブ・・・

 ふつうーね。 何て呼ぼうかしら・・・ まなちゃん?」


最後のちゃん付けに抵抗を感じる。

顔が赤くなり妙な恥ずかしさを覚える呼ばれ方だった。


「学で頼む」


きっぱりと断る。


少女はどこか残念そうにしていたが、渋々了承してくれた。



「今度は学の番!!」


その声で、ようやく気が付いた。

画面の下部に、ニックネームを決めて下さいの文字が並ぶ。


ニックネーム・・・ それも女の子の。


思いつく訳がなかった。

本名でいいよね?

そう思い、入力せず先に進めようとする。



それを少女が拒んだ。


「待って! 名前なしとかやめてよー!!」


明らかな拒絶。

少女の怒りが、表情から伺いとれる。


「ごめん、本名でいいかなと思って」

「本名とか・・・ ないもん・・・」


学の言い訳に、少女はむくれながら答えた。


それは意外な答え。

学は彼女がゲームの登場人物である事を失念していた。

名前が無いとは、考えていなかった。

それだけ彼女が個性的であり、人間的な一面を持つ存在だったのだ。



「ごめん・・・ つける。 だから許して」


「ホント?」

「ホント!」


即答に対して少女がむくれながらも頷く。

そんな仕草も、なんだか可愛いものに思えた。



さて、、

ここからが問題である。


ニックネーム。 付けた事がないのだ。

つけ合える友達もいなかったし。(シクシク

それに、ヒントになる本名が無しい・・・


どうするの? これ?

変な名前は付けられないし・・・


思考を巡らせる。

考えを巡らせてる内に思わずタップを繰り返していた。


これは学の癖。

スマホを持ちながら考え事をすると、タップをする癖があるのだ。

その事に気付かず、さらにタップを繰り返す。

思考を切り上げ画面を再確認した時には、ニックネームが確定していた。



命名:「ああああああああああああ」 取り消し不可。


「あの・・・ あーちゃん。 何てどう?」


少女に確認を行う学。

すると、スマホの画面からはどす黒いオーラが漏れ出していた。

もはや、少女の爆発は不可避である。


「ばかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


当然のように響く罵倒。

それに対し、何も言い返す事が出来なかった。

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